【連載ばぁばみちこコラム】第七十四回 乳幼児健康診査 -1歳6ヶ月までの任意健診- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 子どもの健診のうち、定期で行われているのは4ヶ月、16ヶ月、3歳健診の3回だけで、4カ月健診以降、一人歩きができるようになる16か月までの間に定期の健診はありません。
 健診のないこの期間の発達は目覚ましく、67ヶ月、910ヶ月、1歳などに小児科で個別の任意健診を受け、発達に問題がないか診てもらうことができます。

 

子どもの発達が順調かどうかを見る基準は?=DENVERⅡ(デンバー・ツー) という評価

 子どもを育てていると、同じ年齢のお子さんと比較してしまいがちで、「自分の子どもは順調に育っているのか?」と気になるお母さんが多いと思います。特に初めてのお子さんの場合、比較できる兄弟がいないため、不安になることもあるかと思います。

 子どもは、同じ発達過程に従って成長していきますが、子どもによっては発達がゆっくりしている場合もあります。

 同じ月齢の子どもと比べ、自分の子どもの発達がどの程度かを知る方法として、DENVERⅡ(デンバー・ツー)というスクリーニング方法があります。

 

 このスクリーニング法は、世界54か国で採用され、15か国以上で標準化されている国際的な発達のスクリーニング法です。

 わが国では2003年に日本小児保健協会によって、日本人乳児の発達の調査を行い、標準的な発達の基準が作られました。

 子どもの発達を、①個人-社会②微細運動-適応③言語④粗大運動の4つの領域に分けて評価しています。

 検査項目ごとに、ある年齢区分で「その年齢の何%の子どもがその項目ができるか」を算出した「達成率」を設け、項目ごとに<25%><50%><75%><90%>の達成率を示す「標準枠」が階段状に図示された用紙を用いて判定します。

 標準枠内にあれば同年齢の子どもと同じ発達段階であるということができます。

 そして、標準枠からどの程度外れているかによって、発達の遅れを早めに見つけ出し、対応につなげることができます。

 

 

 

1歳半頃までの粗大運動の発達

 寝返り、ひとり座り、立つ、歩くなどの動作を粗大運動と言います。これらの動作に必要な運動神経は、頭から足へ、中心から末梢へと伝わります。その結果、赤ちゃんは、頭→くび→腕→背中→腰→脚という順序で粗大運動が発達します。そのためには、原始反射が消失し、体の平衡を維持しバランスを保つ姿勢反射の出現が重要です。

 

 

寝返り

 生後3~4ヶ月頃に定頸がみられた後、生後5~6ヶ月頃に寝返りをするようになります。

 最初は仰向けからうつ伏せ、うつ伏せから仰向けのどちらかだけですが、だんだんと筋力がつき、自在に寝返りができるようになっていきます。体重が重い赤ちゃんは、身体を動かすための筋力が必要なので、寝返りできるのに時間がかかりやすいと考えられます。また、うつ伏せが苦手な赤ちゃんも寝返りを始めるのが遅い傾向があります。

ひとり座り

 ひとり座りは生後7~9ヶ月頃にできるようになり、10カ月頃には安定して一人で座れるようになります。お座りがしっかりできることは、両手を自由に使っておもちゃを持つなど、手の微細運動にも関係します

 赤ちゃんはお座りを始めたばかりの頃は、手を前について(パラシュート反射)体が倒れないようにバランスをとっています。

 一人で座れるようになると、背中はまっすぐに伸ばし、下肢は前方に投げだし、両股関節はやや外転、両膝は半屈曲の姿勢で座るのが一般的です。

 

 横座位や割り座などの座り方は片麻痺や痙性両麻痺でみられますが、健常児でもみられることがありますので、他の所見と合わせて問題がないか判定されます。

 10か月を過ぎてもお座りができない場合や筋緊張の亢進や低下などがある場合には、運動発達に遅れがあると言えます。

 

つかまり立ち~伝い歩き、ひとり立ち

 つかまり立ち~伝い歩きは生後8~11ヶ月頃ひとり立ちは生後9ヶ月~1歳1ヶ月頃にできるようになります。

 これらの粗大運動の発達に関係しているのが姿勢を保つ平衡反応である姿勢反射です。

 代表的な反射の一つであるパラシュート反射は生後6カ月~1歳、主に89カ月頃に確立し、それによって、安定したお座り、四つ這い、ひとり立ち、つたい歩きができるようになります。

 10カ月で前方パラシュート反射がみられないもの、左右差のあるもの、手を握ったままのものは異常と言えます。筋緊張や反射の異常がみられた場合には、精密検査が必要です。

 1歳近くになってもつかまり立ちができない、できても両下肢がつま先立ちのままの場合には異常が疑われます。

 

 

ひとり歩き

 1歳前後から立って一人で歩くようになりますが、初めのうちしばらくは、体重のバランスをとるために両腕を上げたポーズでバランスをとりながら歩きます。歩き初めの年齢は個人差がかなりあり、1歳前から歩ける子もいれば1歳半でようやく歩ける子もいます。

シャフリングベビー(shuffling baby)=四つ這いをしない、お座り姿勢で移動をする赤ちゃん

 歩き始めが遅れる赤ちゃんの中にシャフリングベビーと呼ばれる赤ちゃんがいます。

 シャフリングベビーは通常のハイハイをせず、お座り姿勢での移動を経てつかまり立ち、伝い歩き、一人歩きへと進んでいきます。通常2歳ぐらいまでには歩き出します。

 シャフリングベビーは定頸からお座りまでの発達に問題はありませんが、寝返りを始める時期が遅いか寝返りをしない、うつ伏せを嫌う、足を床につけるのを嫌がり、脇を支えて持ちあげても足は伸ばさず、四つ這いの代わりにお座り姿勢で移動します。

 ほとんどのシャフリングベビーは、遅くとも2歳までに歩き始め、その後の発達は問題なく成長していくと言われていますが、他の発育と合わせ、経過を見ていく必要があります。

 

 

1歳半頃までの微細運動の発達

 微細運動は持つ、にぎると言った手指のこまかい動きのことで、身の回りものを使って、目的を果たす(例えばスプーンで食べ物を口元に運ぶ)、クレヨンを握って紙に何かを書くなども微細運動に含まれます。粗大運動は、脳に近い部分から体の末端に向かって順に発達していきますが、微細運動は背骨に近いところから指先に向かって発達していきます。

手の微細運動

 微細運動の基本は、手で物をつかみ、目で見ながら目的をもって動かすことで、微細運動の発達には、目と手の協調運動が必要です。

 産まれたての赤ちゃんの視力は十分ではありませんが、物を見つめる(注視)ことができます。生後2~3か月頃には、目の前の物の動きを追う(追視)ことができますが、最初はゆっくり動くものに限られます。その後、両目で見ることによって遠近感や立体感など目の機能が育っていきます(第52回コラムを参照ください)。目の機能は手の微細運動に欠かせません。

 

 そして、生後45ヶ月頃には手を伸ばし、おもちゃを取ったり握ったりして本来の手の役目を覚えていきます。生後6~7ヶ月頃には左右の手に持っているおもちゃを持ち換えたり、お座りができるようになると、両手に持ったものをと打ち合わせたりして、両手を使った遊びができるようになります。

 その他の微細運動として、10ヶ月頃にはクレヨンなどを握って、点を打ち付けることができ、 1歳頃にはなぐり書きができるようになります。

 

 

 物のつかみ方も、月齢とともに発達します。

 最初は手のひら全体でつかみますが、生後9ヶ月ごろから親指と人差し指でものをつまむことができるようになり、おやつのボーロなどを手指でつまみ口まで運ぶことができるようになります。

 

 

1歳半頃までの言葉の発達

 赤ちゃんは2ヶ月頃になると「あー」「うー」など、クーイングとよばれる発語が見られる(73回コラムを参照ください)ようになり、成長とともに「ばぶばぶ」「あーあー」など、喃語という繰りかえす声を出すようになります。

11ヶ月にはお母さんやお父さんの言葉を理解するようになり、1歳過ぎると「まんま」など意味がある言葉を話し、その後言葉の数が増えてきます。

 言語の発達には個人差が大きいので、周りの赤ちゃんより言葉が遅くても、心配しすぎる必要はありません。

 

 

喃語(なんご)=口や声帯・のどなどの使い方を覚える

 喃語は、赤ちゃんが意味のある言葉を話すようになる前に出すおしゃべりしているかのような声のことで「アーアー」「ばぶばぶ」など多音節からなります。喃語の発声で、赤ちゃんは口や声帯・のどなどの使い方を覚え、少しずつ本格的な言葉を話せるようになっていきます。

 おむつ替えや一緒に遊ぶ時などに赤ちゃんが喃語を話していたら、自然に声をかけてあげましょう。

耳の聞こえ=両側の難聴があれば生後6カ月頃までに、音刺激を与えることが大切

 言葉を話すようになるには、耳からの音や声の情報が重要です。

 大脳にある一次聴覚野(聞こえの中枢)には問題がなくても、内耳を通じて送られる外からの音の信号が脳に到達しないと一次聴覚野は退化してしまいます。この臨界期はおそらく生後6カ月前後であると言われており、両側の重度の難聴では、脳の可塑性がある間に補聴器などで音や言葉の刺激を与えることが重要です。

 

 現在、産まれた赤ちゃんを対象に新生児聴覚スクリーニング(52回コラムを参照ください) が行われており、大半の難聴は、生後早い時期に発見されていますが、病気によっては、遅発性、進行性の難聴を来す場合もありますので注意が必要です。

言葉の発達の遅れ

 言葉の発達は言葉を聞いて、理解し、話す能力を指します

 言葉の発達には個人差が大きいので、周りの赤ちゃんより言葉が遅くても、必要以上に心配しすぎる必要はありませんが、1歳頃になってもよびかけに応じない喃語が出ない声のまねをしない周囲に無関心な場合には、音の聞こえも含め、経過を見ていく必要があります。

 

1歳半頃までの個人-社会関係の発達(周りの人との関わり合い)

 赤ちゃんの社会性の発達の第一歩は自分を取りまく周りの人(多くはお母さんですが)との関係から始まります。

 乳児期にスキンシップなどを通じて得られた親子関係での信頼感は、幼児期以降の社会関係の中での他者との協調につながり、自立のもととなるものです。社会関係の発達には言葉をはじめ、粗大運動や微細運動などの発達も関係してきます。

 

 

赤ちゃんの社会性の発達と自立=基本は生後早期の愛着の形成と基本的信頼感

 赤ちゃんの社会性の発達と自立に必要なのは生後早期の愛着の形成と基本的信頼感です。

 エジンバラ大学の児童心理学者のトレヴァーセン・コールウィンは、赤ちゃんは生まれつき、相手の気持ちや意図を読むことができる間主観性を持っており、周りにいる相手の気持ちを感じることができる能力を持っていると述べています。

 特に産まれてまもなくから認められる一次的間主観性53回コラムを参照ください)は意味のあることばが介在しない相手との直観的で即時的な意識のやり取りで、社会性の原点となるものです。

 生後23ヶ月頃になると、赤ちゃんは、あやされるとにっこりしたり(社会的微笑)、クーイングという声を出したりします。これは自分が注目され、相手がかかわりを持とうとしていると感じ取るためとされており、これにお母さんが答えることによりに愛着(アタッチメント)が形成されます。乳児期に愛着が十分に育ち、愛されているという基本的信頼感が育てば、安心・依存といった親への愛着行動とともに、自立・学習と言った探索行動を通じた社会性の芽が育ってきます。

 

 発達心理学者のEH.エリクソンは、乳児期の発達課題として「基本的信頼感と不信感」をあげています。幼い頃に両親などから抱っこなど社会的関わりをしっかり持つことができた赤ちゃんは、自分が愛されているという基本的信頼感を育むことができますが、そうでない場合には、不信感から自己肯定感が持てなくなってしまいます。この乳児期の不信感は心の中に深く残り、その後の人生において社会性の発達と自立に影響を与える可能性があります。

 

 

さいごに

 子どもの発達は一人ひとり違います。

 1歳半頃までの発達は個人差が大きく、発達がゆっくりでも大半の場合、成長に伴って追いついていくことの方が多いと言えます。

 お母さんが赤ちゃんの発育や発達に心配があれば、一人で抱え込まないでかかりつけの小児科の先生や保健センターのスタッフに相談して下さいね。また、地域にある子育て支援センターのオープンスペースなどに出かけて行くのもいいかもしれません。

 お父さん、お母さんは子どもの伸びる力を信じて子どもとの時間を楽しんで下さい。幼い頃の可愛い笑顔や声の記憶は、子育てに悩んだ時の力になります。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ