【連載ばぁばみちこコラム】第七十二回 乳幼児健康診査 -歴史、1カ月健診- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 乳幼児健康診査では子どもの成長や発達のチェックをするだけでなく、家族に対しても子育てに関する相談支援が行われます。育児の上で様々な不安や悩みなどを抱くお母さんやお父さんは、医師だけでなく保健師や栄養士、臨床心理士などの専門家からも相談に乗ってもらえます。

乳幼児健康診査=赤ちゃんの発育や発達のチェック

わが国の乳幼児健康診査の歴史

 乳幼児健康診査は、昭和40年8月18日に施行された母子保健法第12条及び第13条の規定により、市町村の事業として行うものとされ、乳幼児健康診断乳幼児健診とも呼ばれています。

 昭和40年当初は、全国の保健所で、3、4ヶ月児健診3歳児健診が行われ、これらの健診によって脳性麻痺や染色体異常などの運動発達障害が発見され、療育のシステムが作られてされてきました。

 その後、昭和52年から1歳6か月健診が市町村事業として始まり、歩行を中心とする運動発達言葉の発達を確認するようになりました。

定期健診と任意健診

 乳幼児健診は、住んでいる自治体によって回数が異なりますが、定期で決まっている健診は4ヶ月1歳6ヶ月(満1歳6ヶ月を超え満2歳に達しない幼児)、3歳(満3歳を超え満4歳に達しない幼児)の3回です。

 健診の日にちが決まると対象者となる赤ちゃんがいる家庭には保健センターから郵送で案内が届きます。問診表が入っていますので、あらかじめ記入し、気になっていることなど健診で相談したい内容などについて書き出しておくと健診をスムーズに受けることができます。

 また、特定妊婦(第64回コラムを参照ください)については、妊娠中からのお母さんの経過が保健センターに保存されており、それに基づいてお母さんへの支援が継続されます。

 任意の健診は1ヶ月、6~7ヶ月、9~10ヶ月、1歳、2歳と2歳までに5回あり、主に1歳までの期間に集中しています。これらの健診は小児科で個別に行われます。

 

集団健診と個別健診

 乳幼児健診の受診先は、市町村の保健センターと病院の2つがあります。

 定期健診は主に市町村の保健センターで行われ、複数の赤ちゃんが同じ場所に集まって行う集団健診です。

 個別健診は主に病院で行う任意健診で、1ヶ月健診は出産した病院でお母さんの産後の健診と合わせて行われます。また、赤ちゃんの6~7ヶ月、9~10ヶ月、1歳、2歳児の任意の健診は基本的には小児科で行われます。

赤ちゃんの健診の費用

 基本的には、定期健診は原則無料で、任意健診は自治体によって違います。また、母子手帳と一緒にもらった「乳幼児健康診査受診票」を利用すれば、無料で受けられます。

1ヶ月健診=赤ちゃんの発育とお母さんの産後のケア

 赤ちゃんが生まれて約1ヶ月後に受ける初めての健診が「1ヶ月健診」です。1ヶ月健診は、生後1カ月たった赤ちゃんの成長や健康状態と、お母さんの産後の心身の回復が順調かどうかを診ることが目的で、多くはお産した病院で行われます。

 また、おっぱいの状態や母乳の量、ミルクの飲ませ方、赤ちゃんの健康面での心配事など、お家に帰って育児の中で不安に思っていることを助産師さんなどに相談できます。赤ちゃんを産んだ病院の親しい助産師さんに相談することによってマタニティブルーの予防にもつながります。

 

赤ちゃんの健診

①身体計測(身長、体重、頭囲、胸囲)
 体重は大体1日30g程度増えるのが標準で、生まれて1カ月で約1kg程度増えます。体重は赤ちゃんが母乳やミルクをちゃんと飲んでいるかの目安になり、1カ月健診で特に重要です。

②身体のチェック
 ミルクの回数や量、吐乳の有無、便の色、その他心配なことがないかを確認した後に診察が行われます。
 皮膚の色(健康なピンク色をしているか、黄疸が残っていないか)や湿疹、あざやけがなど赤ちゃんの全身を観察します。
 次に頭から順番に足先まで診察を行います。
 頭にある大泉門は赤ちゃんの時には開いていますが成長とともに閉じていきます。大泉門の膨らみ具合で病気が分かることもあります。
 首の周りを触ってしこりがある場合、斜頸のことがあります。
 呼吸音の異常や心雑音がないか聴診し、腹部を触診し、お腹のふくらみ具合を診ます。また、臍の緒が取れた後がきれいかどうかを確認します。
 股関節脱臼、男の子では停留精巣(陰嚢の中に精巣が入っていない)の有無をチェックします。

③反射の確認

 赤ちゃんには生まれつき持っている原始反射と言われる反射があり、生後1ヶ月頃に最も強くみられます。原始反射がみられることは中枢神経が機能していることの判断になります。

 原始反射にはびっくりして両腕を広げる「モロー反射」、口に何か入った時に吸い付く「吸啜反射」、手に触れたものを握る「把握反射」、赤ちゃんの体を支えて足を床につけると足を交互に出す動きをする「自動歩行」などがあり、これらの反射は生まれた頃の赤ちゃんでしか見られません。これらの原始反射がみられない場合、中枢神経系に問題があることがあります。

 

 

④ビタミンK2シロップ投与の確認

 ビタミンKは体内で血液を固める凝固因子ができるのに必要なビタミンですが、赤ちゃんでは、ビタミンKを作る腸の細菌が少ないことや母乳に含まれるビタミンKが少ないことによって、ビタミンK が減少し、出血しやすい状態(ビタミンK欠乏性出血症)になります。

 ビタミンK欠乏による出血は生後2カ月頃まで起こる可能性があり、母乳栄養のみの赤ちゃんが9割で、出血部位は約9割が脳出血です。これらの出血は赤ちゃんにビタミンKを投与することによって予防することができます。

 K2シロップは出生後産院入院中、産院退院時、1か月健診時に3 回内服させる方法(3回法)が行われてきましたが、2005年の全国調査以降、より確実な予防方法として、生後3か月まで1週間毎に13回「K2シロップ」を内服させる方法(3か月法)が推奨されています。

 

⑥健診費用

 1ヶ月健診の費用は、出産した産院によって変わりますが、一般的に3,000円から5,000円くらいです。広島市では1歳未満のお子さんを対象に、医療機関行う健康診査の助成のために、母子健康手帳の別冊に2回分の乳児一般健康診査受診票が綴じ込んであります。これを使って満1歳の誕生日の前日までに2回受けることができます。

お母さんの健診

 お母さんの1カ月健診では、尿検査、体重測定、血圧測定、内診、超音波検査などを行い、産後に体が回復しているかを確認します。また、必要があれば血液検査を行います。

 助産師はお母さんのおっぱいの状態、育児上の不安や悩みについて話を聞き、子育てについてのアドバイスを行います。

 

1ヶ月健診頃に注意が必要な病気

臍のトラブル

 お母さんの胎盤から胎児に栄養を運ぶ臍帯は出産と同時に切り離されます。その後、赤ちゃんの臍帯(へその緒))は1週間ほどで乾燥し自然にとれます。退院後の臍帯は清潔に保ち消毒を行って乾燥させることが大切です。

 

① 臍の炎症(臍炎)

 へその緒が取れたばかりで、臍が十分に乾燥していないころに細菌が感染して炎症を起こすことがあります。臍がじくじくと湿った状態になり、悪臭とともに、臍の周りが赤くなってきます。

 臍炎は放置していると、細菌が全身に広がり、髄膜炎や敗血症を引き起こす可能性があるので、早めに病院で診てもらうことが大切です。

 

② 臍肉芽腫

 へその緒の細胞の一部が残った状態で、臍の中に小さな赤いイボのようなものがみられるのが、「臍肉芽腫」です。出血したり、臍が乾かずじくじくした状態が続きます。肉芽組織の根元を糸で縛ったり、硝酸銀で焼いたりする治療を行います。

 

③ 臍ヘルニア

 臍ヘルニアはいわゆる“でべそ”のことで、へその緒が取れたあとにへそが飛び出ている状態で、5~10人に1人くらいの赤ちゃんにみられます。

 臍ヘルニアは生後1か月頃から徐々に目立つようになり、生後3か月頃まで次第に増大する傾向にあります。美容的な問題はありますが、腹筋が発達することで1歳頃までに自然に治ると言われています。しかし、一部は、臍ヘルニアが改善しないこともあり、形成手術が必要となることもあります。でべそを外的に圧迫(スポンジ圧迫法など)することで、臍ヘルニアの自然治癒を早期の段階から促すことが期待できます。

 

先天性肥厚性幽門狭窄症

 胃の出口を幽門と言いますが、この部分の筋肉が産まれつき厚くなっている病気です。

 幽門部が狭くなり、ミルクが通りにくくなるため、赤ちゃんは胃の中にたまったミルクを大量に吐いてしまいます。出生1000人に1〜2人にみられ,男女比は約5:1と男の子、また第1子に多く見られます。

 嘔吐は生後2~3週間頃から始まり、最初は吐く回数や量は多くありませんが、次第に噴水のように大量に吐くようになります。赤ちゃんは繰り返す嘔吐で放置すると体重が増えないだけでなく、脱水を起こしぐったりてしまいます。

 超音波検査で幽門筋が厚くなっていることで、診断されます。

 血液検査などで脱水の程度や電解質などのバランスをチェックし、点滴で調整を行った後手術を行います。手術は厚くなった幽門の筋肉を切開し拡げる手術(ラムステッド手術)です。

 

 

 最近では腹腔鏡を使ったラムステッド手術が行われるようになってきました。一方手術以外の治療法として硫酸アトロピンという薬を投与し幽門筋を緩ませる治療法が行われることもあります。

 

先天性胆道閉鎖症=早期発見が重要!命にかかわる

 産まれてしばらくの間、多くの赤ちゃんは皮膚などが黄色くなる黄疸が起こります。この生理的黄疸は生後2~3日から起こり始め、5~7日に最も症状が強くなり、多くは生後7日以降に自然に消えていきます。

 黄疸は、赤血球が壊されてできたビリルビンという黄色い色素が原因です。胎児の赤血球は寿命が短く壊れやすい状態にありますが、胎児の時は壊れてできたビリルビンは胎盤を通じてお母さんによって分解されています。出生後には、赤ちゃんは自分の肝臓でビリルビンを分解することが必要になり、分解する能力が追い付かないため生理的黄疸が生じます。日齢が進むにつれて肝臓での分解ができるようになってくると黄疸が軽くなってきます。

 

 生理的黄疸が長引いたり、一端消失した黄疸が再び強くなる病気のうち、注意が必要なのが先天性胆道閉鎖症という病気です。この病気は約10,000人に1人の割合で発症し、消化管出血や脳出血を起こすなど命に関わる病気です。生後2ヶ月以内のできるだけ早い時期に見つけて手術をすることが重要です。

早期発見につながる胆道閉鎖症の3つの症状=黄疸、薄い便の色、濃い尿の色

1.黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる)

 胆汁の成分はビリルビンという黄色い色素で、胆道から腸へ流れ便から排出されます。胆道閉鎖症では、胆道から腸へ流れないため血液中にビリルビンが増加し皮膚が黄色くなります。

 

2.便の色

 胆汁が排出されないため、便の色はうすい黄色や白っぽい便になります。母子手帳に「便色カラーカード」がついています。便の色が点数化されていますので、これを使って便の色の変化を見ることが大切で、便の色が薄くなっていくようなら要注意です。

 

3.尿の色

 血液の中に増えたビリルビンは腎臓から排出されるため、尿の色は濃い黄色から褐色になります。

胆道閉鎖症では脳出血を起こす

 胆汁は脂肪の消化吸収に必要な分泌液で、肝臓で作られ胆のうに貯蔵され、胆道を通って十二指腸に送られ脂肪の消化吸収の手助けをします。胆汁がないと脂肪に溶けるビタミンKは吸収されないために凝固因子が作られず、出血傾向を起こします。

 また排出されない胆汁が肝臓にはどんどんたまり(胆汁うっ滞)、肝臓の細胞が破壊され、最終的には完全に壊れる「肝不全」になり命に関わります。

胆道閉鎖症の治療法は?

 肝臓と腸管を直接つなぎ、胆汁が腸へ排出される経路を作る「葛西手術」と呼ばれる手術を行う必要があり、生後2ヶ月以内に行うことが望まれます。また胆汁うっ滞が進み肝臓へのダメージが大きい場合、最終的に「肝臓移植」が必要になることがあります。

 

さいごに

 赤ちゃんが生まれて1ヶ月。

 お母さんとお父さんはようやく赤ちゃんがいる生活に慣れ、少しずつ可愛さを実感してきた頃ですね。先天性幽門狭窄症や胆道閉鎖症などの病気は、頻度は高くはありませんが、早く診断することが大切です。ミルクの飲み方や便の色など、赤ちゃんの普段の状態に気をつけて下さいね。心配な場合には1か月健診を待たずに、早めに小児科の医師に相談して下さい。

 赤ちゃんの健やかな成長を祈っています。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ