【連載ばぁばみちこコラム】第四十七回 妊娠中の飲酒と喫煙 ー赤ちゃんへの影響ー 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 

 妊娠中の飲酒と喫煙は赤ちゃんに影響を及ぼすことが知られています。お母さん自身の飲酒と喫煙だけでなく、周りの人がたばこを吸うことによるお母さんの受動喫煙も赤ちゃんに影響があります。これらの赤ちゃんへの影響は、周囲の人が気を付けることによって予防することができます。

わが国の飲酒と喫煙の状況に関する調査:どれぐらいの人が飲酒や喫煙をしているか?

 厚生労働省は、毎年「国民健康、栄養調査」を行っています。これは、わが国の健康に関する様々な調査を行うもので、この中で、生活習慣の一つとして飲酒、喫煙の状況が報告されています。

生活習慣病につながる飲酒の状況

 男性で1日当たりの純アルコールが40g以上、女性で20g以上の生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をしている人の割合は、2018年の報告では、男性14.9%、女性9.1%となっています。2010年からの推移では男性はほぼ横ばいですが、女性では有意に増加しています。

 

 

 年齢別の飲酒者は、男性は40歳代、女性は50歳代が最も高く、それぞれ21.0%、16.8%と報告されています。妊娠の可能性がある20歳代女性で5.3%、30歳代では11.7%を占めています。

 

習慣的喫煙の状況

 習慣的に喫煙している人は2019年では、男性27.1%、女性7.6%と報告されています。この10年間でみると、男女とも有意にたばこを吸う人の割合は減少しています。

 

 

 年齢階級別にみると、3060歳代男性でたばこを吸う人の割合は高く、30%を超えていいます。

 また、女性では50歳代が最も高く12.9%ですが、妊娠の可能性がある2039歳の女性でも8% 程度で、習慣的にたばこを吸っていることがわかります。

 

 

お母さんの飲酒が赤ちゃんへ与える影響 胎児性アルコール症候群と母乳への影響

 妊娠中にお母さんが大量のアルコールを飲むと、知能障害や発育障害などを伴う「胎児性アルコール症候群」と言われる子どもが生まれる可能性が高まります。わが国では、1~2 万人に1人程度の頻度で生まれていると報告されています。

 アルコールには催奇形性があり、エタノールとその代謝産物であるアルデヒドが胎盤を通過し、胎児の細胞の増殖や発育を障害することによっておこると考えられています。

 

 

 妊娠初期の器官が作られる時期では特異的な顔つきや小頭症、先天性心疾患、関節の異常などの種々の異常が生じます。また、妊娠中~後期では胎児の発育の遅れや中枢神経障害などが生じます。

飲酒量との関係

 一般には「胎児性アルコール症候群」の赤ちゃんは大量のアルコールを習慣的に飲んでいるお母さんから生まれており、一日のアルコール摂取量が120mlを超すと30%以上の赤ちゃんに影響があるとされています。また、一日に飲むお酒の量だけではなく、飲酒の回数が関与するとも考えられています。「これ以下の飲酒量であれば胎児に影響がない」という安全な量はありませんので、妊娠中はお酒を飲むのはやめましょう。

飲酒が授乳に与える影響

 母乳の分泌を促す「オキシトシン」というホルモンはアルコールによって分泌が抑制され、母乳の量が減ることがあります。

 また、お母さんが飲むと、母乳のアルコール濃度は飲酒後30分から1時間ほどでピークに達し、お母さんの血中アルコール濃度と、ほぼ同じ濃度のアルコールが母乳に出ます。赤ちゃんは内臓や脳が未成熟なためアルコールの影響を受けやすく、イライラしたり、ぐったりするなどの症状が出ることがあります。

 アメリカ小児科学会が発表した「母乳と母乳育児に関する方針宣言」では、「授乳中は最小限のアルコール摂取にとどめ、母親の体重1kgにつきアルコールは0.5gを超えない範囲で、時々の摂取にとどめること。アルコールを飲んだ場合は2時間以上の間隔をあけて授乳すべきである。」と勧告しています。

 

たばこによる健康被害

 たばこは、がんをはじめとして、脳卒中や虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患、2型糖尿病、歯周病など、多くの病気との関連が明らかになっています。

 わが国では、2016年に「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(通称、「たばこ白書」)が公表され、健康への影響について、たばことの因果関係をレベル1~4の4段階で判定しています。詳しくは以下の厚生労働省のホームページ上で見ることができます。

 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html

 

お母さん自身の喫煙が赤ちゃんへ与える影響

 タバコの煙にはニコチン、一酸化炭素、シアン化合物などが含まれており、胎児に対して毒性を持っています。ニコチンは血管を収縮させて、子宮や胎盤への血液量を減少させ、また、一酸化炭素は酸素の運搬能を低下させ、胎児が低酸素状態となるため、赤ちゃんの体重増加が妨げられます。

 流産、早産、前置胎盤、胎盤早期剥離などの妊娠合併症も増加し(2~3倍)、早産率は喫煙本数と相関を認めています。

 

 

受動喫煙による健康被害

 本人が吸い込む煙を主流煙、タバコの先から出ている煙を副流煙と呼び、タバコを吸ってはいないのに、副流煙によって煙を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」と呼びます。

 タバコには約4000種類の化学物質、約2000種類の有害物質、約70種類の発がん物質が含まれています。そして副流煙には、主流煙の何倍もの有害物質が含まれており、たばこは吸っている本人以上に、周りの人達に大きな健康被害を与えています。

 また、子どもの呼吸器疾患や乳幼児突然死症候群を引き起こすことが指摘されています。乳幼児突然死症候群については以前の第25回コラムにも書かせていただいていますので参考にしてください。

 

 

 また、第4回コラムにも書かせていただきましたが、子どもの誤飲事故の原因として「タバコ」が最も多くを占めており、危険です。これも健康被害の一つではないかと思います。

 

受動喫煙の状況と受動喫煙防止法

 厚生労働省による「国民健康、栄養調査」の受動喫煙の状況の検討では、2019年に喫煙者を除く20歳以上の人が受動喫煙を受けた場所別の割合は、「飲食店」では29.6%と最も高く、次いで「遊技場」「路上」となっています。受動喫煙の割合は2003年以降全ての場所で有意に減少しています。

 

 

 全世界では「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」によって、受動喫煙の健康被害を防ぐために分煙ではなく全面禁煙化がすすんでいます。

 日本では、「望まない受動喫煙」をなくすために202041日より、受動喫煙防止法によって受動喫煙防止対策が努力義務から、明確なルールを持った義務に変更され、違反した場合には罰則規定が定められました。

 

 

 屋内は原則禁煙です。施設ごとに基準が設けられ、学校、病院、児童福祉施設、行政機関などの第一種施設では原則敷地を含め全面的に禁煙となっています。

 第二種施設に該当する事務所、工場、ホテル、飲食店、鉄道など、大半の施設では、全面禁煙か分煙するか決定する必要があり、分煙の場合「喫煙専用室」もしくは「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が必要です。また、喫煙室を作る場合には技術的基準をクリアすることが必要です。

 

さいごに

 新しい命が授かるということは本当に奇跡です。

 お母さんを選んできてくれた赤ちゃんが、もし、自分の煙草やお酒が原因で、ならなくてよかったはずの病気や障害を抱えてしまったら。

 後から後悔することがないように、お母さんだけでなく、新しい命を迎えるお父さんも一緒になって守ってあげてくださいね。

ではまた。Byばぁばみちこ