【連載ばぁばみちこコラム】第四十六回 妊娠中の栄養管理 -妊娠中に注意すべき食べ物- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

妊娠中の食べ物はお母さんの健康と赤ちゃんの発育を守るのに大切です。妊娠中には、注意が必要な食べ物がありますので、あらかじめ知っておいてくださいね。

妊娠中の栄養管理はとても大切です!!

 厚生労働省の平成29年「国民健康、栄養調査報告書」によれば、これからお母さんになる20歳代の女性の中で、やせている人(BMI<18.5kg/m2)の割合は21.7%と多く、栄養素として、ビタミンB1、B6、C 、D 、葉酸、カルシウム、マグネシウム、鉄などの摂取量が必要量を下回っていることが指摘されています。この原因として過度なダイエットや不規則な食生活が指摘されています。

 お母さんのやせや妊娠中の体重増加不良は、赤ちゃんの発育不全の原因となる可能性があります。

 また肥満や妊娠中に体重が著しく増加する場合には、糖代謝異常や妊娠高血圧症候群など合併症の原因にもつながります。

妊娠を届け出た際に保健所から受け取る母子健康手帳の中に、お母さんが1日にどれくらい食べたらよいかの目安がイラストでわかりやすく示されていますので、参考にしてください。

 

 

妊娠中にはどのくらいのカロリーが必要でしょうか?

 妊娠中や授乳中には、赤ちゃんの発育のために、妊娠前よりたくさんのカロリーを必要とします。

 必要なカロリーは、標準体重から計算したカロリーに妊娠の時期に応じて必要なカロリーを加えて計算されます。

 妊娠中の適正な体重増加は、お母さんと赤ちゃんの健康にとって大切です。日本産科婦人科学会では、妊娠前の母体のBMIから判断した体格にもとづいて、妊娠中の体重増加指導の目安を決めており、この範囲の体重増加であれば心配がないと言えます。

 

 

妊娠中のバランスの良い食事と注意

 バランスの良い食事は主食、主菜、副菜がそろった食事です。

 主食は、ごはん、パン、麺など、炭水化物をたくさん含み、エネルギーのもととなる食材のことを言います。妊娠の時期に応じた適正なエネルギー量を摂取するっことが必要です。

 主菜は、魚や肉、卵、大豆製品などを使った食事の中心となる料理で、からだを構成するために必要な栄養素であるたんぱく質や脂質を多く含みます。たんぱく質は特定の食材に偏らず、色々な食材を組み合わることが大切ですが、たんぱく質が豊富な食品の中には、注意が必要な食品があります。

 副菜は野菜、豆、キノコ、海藻などの不足しがちなビタミン、ミネラルの供給源です。

 日本人女性ではカルシウムは不足しがちで、牛乳・乳製品・小魚でなど、カルシウムを多く含む食品を組み合わせ、カルシウムの摂取量を増やすようすることが大切です。

 

 

 妊娠中は栄養が偏らないようバランスのよい食事をとることが重要ですが、「妊娠中に食べてはいけないもの」とお腹の赤ちゃんの成長段階に合わせて気をつけたい「注意が必要な食べもの」があります。

 また、妊娠中に不足しないよう注意する必要があるのは、葉酸、鉄、カルシウムです。

 この中でも、ビタミンB群の一つである葉酸はたんぱく質や細胞をつくる時に必要なDNAなどの核酸を合成する重要な役割があります。

 妊娠初期に葉酸が不足すると、赤ちゃんに神経管閉鎖障害という中枢神経系の異常を起こす危険があります。

 中枢神経系は、胎児の背中の皮膚の真ん中に神経板という神経のもとになる組織ができ、その後くぼみ(神経溝)ができた後、くぼみの左右がちょうどファスナーで閉じるように合わさって神経管を形成し閉鎖します。

 この中枢神経系の形成は、妊娠のごく初期の受胎後およそ28日で起こると言われています。

 多くの場合、妊娠に気付くのは、神経管ができる時期よりも遅いため、妊娠を望んだ時から早めに葉酸を飲み始めることが望まれます。また、葉酸を多く含んでいる食べ物も普段からしっかりとるように心がけて下さい。

 

 

 

 

妊娠中に食べてはいけないもの 生ハム・ナチュラルーズなどの「生もの」

 妊娠中に食べてはいけないものに「生もの」があります。

 生ものや十分に洗っていない生野菜などから、トキソプラズマやリステリアという細菌が胎盤を通じて胎児に移行すると、赤ちゃんに重篤な脳障害などの後遺症を残すことがあります。

 先天性トキソプラズマ感染症については以前の第十八回コラムに、詳しく書かせていただいていますので、参考にして下さいね。

 

 

 リステリア菌は、自然界に広く分布しています。健康な人ではリステリア菌を含む食品を食べることによって下痢、発熱などの食中毒症状を引き起こします。

 妊娠中は健康な人の20倍、リステリア菌に感染しやすいといわれており、流産・早産・死産や、敗血症、髄膜炎など赤ちゃんの命に関わる病気を引き起こす可能性があります。

 原因となる食品は加熱していないナチュラルチーズ、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモンなどです。また、コールスローサラダなどの生野菜から感染することもあります。リステリア菌は、塩や酸を使った一般的な保存方法や約5℃の冷蔵庫の中で長期間増え続けるので注意が必要です。

 

食べる量に注意!!!妊娠中に「大量に」食べてはいけないもの

 注意が必要な食べ物1 カフェインを含むコーヒー、紅茶、お茶などの飲みもの

 カフェインをとりすぎると、中枢神経系の刺激によるめまいや頻脈、興奮、不安、震え、不眠症などの症状をきたすことがあります。また、妊娠中はカフェインが身体から排出されにくいので、大量にとると赤ちゃんの発育が遅くなったり、低体重、早産になったりする可能性が高まるといわれています。

 世界保健機関はカフェインの胎児への影響について、まだ確定してはいないが、「妊婦はコーヒーの摂取量を一日マグカップ3~4杯までにすべき」としています。

 日本では明確な目安量は設定されていませんが、コーヒーなどカフェインを含むものを飲む場合には、1日1~2杯程度に留めておくのが無難です。

 チョコレートの原料であるカカオにはカフェインが多く含まれています。チョコレートの種類によって違いますが、カカオ分が多いチョコレートはカフェインが多く注意が必要です。

 

 

 茶の木以外の植物で作る「茶外茶(ちゃがいちゃ)」の多くはカフェインが含まれていません。

 妊娠中にはルイボスティー、麦茶、黒豆茶などフェインが含まれていないお茶も楽しまれると良いと思います。

 

注意が必要な食べ物2 水銀が多く含まれる魚

 魚は良質なタンパク質を含んでおり、妊娠中に積極的に食べたい食品です。しかし、中には、体内の水銀の量が多い魚があり、一度に大量に食べると お腹の赤ちゃんに影響を与える可能性があります。

 

 

 水銀は地殻に豊富に含まれる鉱物で、火山活動や地殻変動、また石炭や石油が燃やされることによって大気中に放出され、空気や水、土の中などを循環しています。

 成人では、体内に取り込まれた水銀は徐々に排泄され、普通の食事では体内に過剰に蓄積されることはありません。

海水に溶け込んだ水銀は、食物連鎖で大きな魚が小さな魚を食べることにより、大きな魚ほど体内にたくさんの水銀を蓄積しています。

 お母さんが妊娠中に、水銀をたくさん含んだ魚を取りすぎると、赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があるため、平成17年厚生労働省医薬食品局食品安全部会は「妊婦の魚介類の摂取と水銀に関する注意事項」を公表しました。

 胎児は、不要なものを排泄する機能が未熟なため、臓器や脳に水銀を蓄積し影響を及ぼす可能性があります。水銀は胎盤を通して、赤ちゃんに移行するので、胎盤の完成する4ヶ月以降、特に胎児の発達が著しい妊娠後期以降は水銀を多く含む魚を食べる回数を減らすほうが安全です。

 

 

注意が必要な食べ物3 ビタミンAを多く含むレバーやうなぎ

 ビタミンAにはいくつかの種類があり、「レチノール」は動物性食品に多く含まれており、植物性食品に含まれている「βーカロテン」は体内でビタミンAになります。これらの合計が摂取量で、レチノール活性当量(μgRAE)という単位で表されます。

 ビタミンAはお腹の中の赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素で、妊娠末期の3か月に必要量が増加します。妊娠後1~3カ月くらいの妊娠初期は、赤ちゃんの脳や心臓、目などの器官が作られる時期で、ビタミンAの過剰摂取によって先天的な異常を引き起こす恐れがあります。

 厚生労働省が定めているビタミンAの推奨量は、成人女性で650~700μgRAE/日で、1日の上限摂取量は2700μgRAE/日となっています。

 ビタミンAを多く含む食品で特に気をつけたいのが、動物性食品のうちレバーとうなぎで、妊娠初期は控えたほうが安全です。野菜のβーカロテンは、ビタミンAが過剰になると体内でビタミンAへの変換率が減少するので、摂りすぎてもほとんど問題になりません。

 

 

注意が必要な食べ物4 ヒ素を含む「ひじき」などの海産物

 ヒ素は自然環境中に広く存在し、様々な食品や飲料水には微量のヒ素が含まれています。ヒ素が短期間に大量に体内に入った場合は、発熱、下痢、嘔吐などの症状があらわれると報告されています。

 また、長期間にわたって、継続的に体の中に入った場合には、皮膚の変化やがんの発生などの悪影響があると報告されています。

 平成25年、農林水産省の食品安全委員会は、食品中のヒ素について、ひじきなどの海産物中には多くのヒ素化合物が含まれており、農産物の中では米からの摂取が比較的多い傾向にある報告しています。米は精米し、よく研いで食べることでヒ素を少なくすることができます。また、乾燥ヒジキは、水戻し後にさらにゆでる「ゆでこぼし」の調理法で、ヒ素の9割程度まで減らすことができます。

 

 

注意が必要な食べ物5 ヨウ素を多く含む昆布などの海藻類

 ヨウ素を多く摂りすぎると赤ちゃんに甲状腺の機能低下が生じることが知られています。ヨウ素を多く含む食品は海藻類で、特に昆布には多く含まれています。

 厚生労働省はヨウ素の1日推奨量を示しています。それによると、 18歳以上の成人ヨウ素推奨量は130μg/日、 上限量は3,000μg/日とされています。

 厚生労働省によれば、日本人の平均のヨウ素摂取量は、1,400μg/日(1.4mg/日)程度と推測され、推奨量の10倍以上で、 多くの人がヨウ素の摂取過多の傾向にあると言えます。

 詳しくは第三十二回コラムに、詳しく書かせていただいていますので、参考にして下さいね。

 

さいごに

 

 注意が必要な食材・食品以外であれば、妊娠中も基本的には妊娠前と同じように食べても問題はありませんので、栄養素の偏りがないようにバランスよく食べることを心がけてくださいね。

 また、幼い頃からの食生活も大切ですね。働いているお母さんも多く、なかなか手作りの食事の準備が難しいことが多いかもしれませんが、お休みの日にはお子さんと一緒に料理ができたらいいですね。

 

ではまた。Byばぁばみちこ