【連載ばぁばみちこコラム】第八十七回 子どもと教育 -放課後等デイサービス- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 放課後等デイサービス(略称放デイ)は学校に通っている障害児に対し、放課後や夏休みなどの長期休暇中に生活能力を向上させるための指導や学習などを継続して行い、障害児の自立を促進することを目的としています。ご両親が共に働いている家庭が増え、放課後や夏休みなどに安心して通う場所があることは子どもだけでなく親にとっても心強いサービスと言えます。

障害児支援の種類と放課後等デイサービス

 放課後等デイサービスは平成24年に改正された児童福祉法に位置づけられた新しい支援です。平成24年に改正された児童福祉法では、今まで障害の種類で分けていた障害児の支援給付を大きく通所系入所系という利用の仕方によって分けました。

 放課後等デイサービスは、通所系の障害児支援に位置づけられるものです。

 

 

 

放課後等デイサービスのガイドライン(令和6年7月):こども家庭庁の提言

 放課後等デイサービスは開始されてから間もないこともあり、子どもと保護者の要望は様々で支援の内容も一定の決まりはなく多種多様です。そのため支援を行う事業所も内容や支援の形に大きな開きが認められています。

 この状況を踏まえて、子ども家庭庁では、平成26年7月に取りまとめられた障害児支援の在り方に関する検討会において、放課後等デイサービスについて支援の基本的事項や職員の専門性の確保などを定めたガイドラインの策定が早期に必要との提言がなされました。

支援の形は様々であっても、障害のある学齢期の子どもを健康で幸せに育てるという支援の本質は同じであり、各事業所は支援の質を向上させるための基本的な内容や運営などの事項を守った上で、実情に応じた様々な工夫により支援の質を向上させていくことが求められています。

放課後等デイサービスの現状

 放課後等デイサービスガイドラインの策定が急がれた背景に放課後等デイサービスの現状があります。厚労省の統計によれば、利用児童の数は平成24年には53,590人でしたが、令和3年には274,414人と約5倍に増加し、それに伴ってサービスを提供する事業所の数も平成24年が2,887カ所であったものが、令和3年には17,298カ所と約6倍に増加しています。

 

 

 

 

 また、厚労省の統計によれば、放課後等デイサービスにかかる費用も令和3年は平成24 年の8.6倍となっており、令和2年度の費用額約3,723億円は、障害福祉サービス等全体の総費用額の12.6%、障害児支援全体の総費用の68.4%と大きな比重を占めています。

 放課後等デイサービスは利用児童数、事業所数、総費用額とも大幅な増加を続け、民間事業者が参入し、障害福祉サービスの中でも成長中の事業形態になっています。

 

放課後等デイサービスの対象となる子どもと役割

対象となる子ども

 放課後等デイサービスの対象は、学校教育法第1条に規定されているいわゆる一条校85回コラム 子どもと教育 を参照ください)に就学していて、放課後又は休日に支援が必要と認められる障害のある子どもとされています。

基本的な役割

(1)本人の発達を支援することによって健全な成長を図る

 支援が必要な子どもの状況に応じた発達への支援を行い、学校や家庭とは違った体験を通じて、生きる力や自立心を育て、子どもの健全な育成を図るのが第一の役割です。

 

(2)保護者を支援することによって発達の基盤である家族を支援する

 日常的な関わりの中で保護者との信頼関係を築き、子どもの発達について気兼ねなく相談できる場であることが必要です。また、兄弟を含めた家族を支援することは子どもの暮らし全体を支えることにつながり、それにより保護者は子どもに向き合うゆとりを持つことができます。

 

(3) 後方支援によって地域とのつながりをつくる

 子どもたちは地域の子どもの集団の中で育っていきます。そのためには放課後等デイサービスは、一般的な放課後児童クラブや児童館などと連携し、安心して暮らすことのできる地域での基盤を作るための後方支援の役割を果たす必要があります。

 

放課後等デイのサービス内容

 

 対象となる年齢は小学校から高等学校等までの子どもで、学年によって心身の変化が大きく、障害の特性や発達段階などにも差があります。支援内容は一人ひとりの個別支援計画(放課後等デイサービス計画)に沿って行われます。

支援が必要な5つの領域

 実際の支援においては(1)健康状態の維持改善 (2)姿勢保持と運動や感覚 (3)対象や外部の環境に対する適切な認知と行動 (4)コミュニケーションと言語 (5)集団参加など他者との関わりや情緒の安定など5つの領域について支援の計画を立てます。

支援には学校と放課後等デイサービスの支援の一貫性が必要で、学校との連携が大切です。

支援のための4つの活動

 一人ひとりの子どもの特性に合わせ、5つの領域にわたって、どのような支援が必要か計画を立てていきます。支援のために行う活動は主に4つですが、活動に当たっては子どもの意見を聞き、子どもが自分で楽しみながら選んで行えるようにすることが大切です。

 

(1)日常生活の充実と自立必要な活動

 子どもの発達に応じて日常で必要となる基本的な生活動作や将来の自立生活に役立つ活動を行います。

 

(2)多様な遊び、創作的活動、体験活動

 表現する喜びを体験できる創作活動や、日頃から自然や季節の変化に触れ豊かな感性を培うことのできる作業活動を行います。遊びそのものが子どもの発達には大きな役割を果たしますので、挑戦や失敗を含め、子どもが興味を持って自由に遊べることが大切です。

 

(3)地域交流の機会の提供

 子どもの社会生活や経験が制限されてしまわないように、社会経験の幅を広げていく支援や地域交流を行い、地域の中に子どもの居場所を作ります。またボランティアを受入れ積極的に地域との交流を図っていくことが大切です。

 

(4)子どもが主体的に参画できる活動

 子どもと一緒に活動を企画したり、過ごし方のルールを決めたりするなど、子どもが主体的に参加できる機会を設け、こどもに寄り添いながら進めていくことが重要です。これにより子どもは自分自身が権利の主体であることを実感することができます。

 

 

放課後等デイサービス利用までの流れ

 放課後等デイサービスを利用するには「各自治体へ受給者証発行の申請」「デイサービス事業所の選定」→「事業所と契約し利用開始」の3つのステップが必要です。

 受給者証の申請と事業所探しは、相談支援などを利用し同時進行で行うと効率的です。

 

(1)役所の福祉窓口に問い合わせ、受給者証発行の申請に必要な書類をもらう

 問い合わせの際は「放課後等デイサービスを利用したいこと」「相談支援を利用したいこと」の2点を伝え、必要な手続きや持参する書類を確認します。

 「相談支援」では放課後等デイサービスの利用方法、事業所探しや利用計画書の作成など福祉に関する相談やサポートを行なってくれますので、スムーズに申請が行えます。

 

(2)利用計画を作成する

 放課後等デイサービスの利用には「受給者証」が必要で、受給者証の発行には、福祉サービスの利用計画書類を作成し提出する必要があります。自分で「セルフプラン」を作り提出することも可能ですが、相談支援を利用すると分からないことなどを教えてもらえます。

 

(3)申請書や利用計画書などの書類を提出し受給者証の申請を行なう

 書類を提出後、支給決定(受給者証の交付)まで12か月程度かかる場合があります。

 

(4)希望の放課後等デイサービス事業所を探し見学や面談を行なう

自分で事業所を探すこともできますが、条件に合った事業所を効率的に探すには相談支援を利用するのが便利です。事業所が見つかったら、直接問い合わせて見学・体験すると安心です。

事業所を選ぶ際には、空き状況を事前に確認し自宅から通いやすい範囲で探しましょう。また、見学や体験の際はできるだけ子どもと一緒に訪問し雰囲気を確認することが大切です。

 

(5)受給者証交付

受給者証の支給日数はサービスを月に利用できる回数で、自治体によって決められます。

 

(6)放課後等デイサービス事業所と契約する

 

(7)個別支援計画を確認し利用開始

 契約後、事業所が作成した個別支援計画を保護者が確認し、サインをすることで手続きは完了です。受給者証に記載の「利用開始日」から放課後等デイサービスを利用できます。

 

 

放課後等デイサービスの利用料金(利用者負担額)

 サービスが利用できるのは、小学生から高校生(6歳から18歳)までの就学児ですが自治体の判断によって必要性が認められた場合は20歳まで利用できます。地域の放課後児童クラブ(児童館)は別の制度となっており、放課後等サービスと併用して利用することも可能です。

 放課後等デイサービスにかかる利用料金は、国や自治体が9割負担し、保護者は1割を負担することが原則となっています。利用者負担には所得に応じて月ごとの上限額が定められており、利用料金以外にもおやつなどの費用がかかることもあり、支払う金額は変わってきます。

 利用料金は前年度の年間所得890万円未満の世帯は負担上限月額4,600円、890万円以上の世帯は負担上限月額37,200円です。なお、生活保護受給世帯や市町村民税非課税世帯の場合は利用者負担はありません。

 

放課後等デイサービス事業所の運営管理

 

 放課後等デイサービスのガイドラインでは、子どもに対する支援内容だけでなく、運営する事業者側の基本的な支援体制に関する事項が示されています。

 

(1)募集定員

 設備、職員等の状況、障害のある子どもの情緒面や安全性の確保の観点から、適切な利用定員を定める必要があります。

 

(2)施設及び設備等

 安全安心して過ごすことができるようバリアフリー化など障害に応じた工夫や適切なスペースの確保(児童発達支援センターは、子ども一人当たり2.47㎡の床面積と決められている)に努めることが必要です。

 

(3)設置者・管理者の責務と適切な職員配置

 放課後等デイサービス事業所は、管理者、児童発達支援管理責任者、保育士だけでなく、通ってくる子どもによっては、機能訓練担当職員や看護職員の配置が必要です。

 設置者・管理者は、法令等を遵守し、支援の質や職員の資質向上を図る必要があります。

 

(4)適切な支援を提供し支援の質を向上させる PDCAサイクル

 日々の活動に関するタイムテーブルや活動プログラムについてPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)で構成される一連の繰り返しに基づいて、事業所が一体となって支援の質の向上と振り返りを行うことが大切です。

 

(5)説明責任の履行と、透明性の高いサービス事業の運営

 子どもや保護者の気持ちに寄り添った丁寧な説明を常に心がけ、地域に開かれた事業運営を心がけることが求められます。

 

(6)様々なリスクへの備えと法令遵守

 子どもの健康状態の急変や感染症の流行、災害などに対し日頃から備え、子どもの虐待を未然に防止するなど法令を守ることは特に重要です。

 

(7)秘密保持と職場倫理

 業務上知り得た秘密を漏らすことがないよう、誓約書の提出や雇用契約に明記するなど、必要な措置を講じる必要があります。また、職員は倫理意識を常に守ることが求められています。

 

(8) 事業所全体の自己評価

 保護者(客観的視点による)の評価、従業者による自己評価を実施し、これらの評価を受けて行った改善の内容については、1年に1回以上、保護者や地域に向けて、公表する必要があります。

 

 

障害児サービスがビジネス化することへの課題

 放課後等デイサービス事業所の指定を受けるには運営主体が法人である必要があります。運営する法人は 株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人、社会福祉法人など様々です。

 どの事業所も人員基準建物の適法性や設備基準協力医療機関の選定など指定を受ける一定の基準はクリアしていると思われますが、運営方法や支援方針についてはそれぞれの事業所で差があります。障害児通所事業は収入の9割が国からの給付金で運営できるため、今後も市場化が進み、高需要かつ低リスクで始められるビジネスとして民営化が進む可能性があります。

 子ども一人ひとりの個性を大切にすると言っても、効率の良い運営でサービス業として利益を追うようになると本来の目的からずれてしまいます。

 子どもが通う放課後等デイの事業所を決めるには希望する支援が受けることができるか相談し、子どもにとって好ましい環境なのかが最も重要です。

 

さいごに

 放課後等デイサービスは障害を持つ子供たちの自立を支援し、自己肯定感や社会経験を増やすのが目標です。個別のニーズと集団活動のバランスがとれ、子どもが笑顔でのびのびと通うことが大切です。支援を受ける時間帯は、本来子どもにとっては放課後の自由な時間なので、規律・集団生活を重視しすぎると、子どもの特性によっては本人にとって苦痛な場合があります。

 子どもに合った放課後等デイサービスを探すのに相談支援の相談員は力になってもらえます。ぜひ、相談してください。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ