【連載ばぁばみちこコラム】第五十八回 子どもをめぐる法律(1)-福祉、医療に関する法律― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 言葉を持たない赤ちゃんは人権や権利を主張することができません。周りの大人が子どもに関係のある法律についての知識を持ち、子どもは産まれた時から「一人の人間として守られるべき存在である」という意識を持つことはとても大切です。

子どもをめぐる法律

 子どもは「一人の人間」として誕生し「社会学的存在」へと育っていきます。こどもが元気に育っていくためには、保健・医療だけでなく、家庭環境・地域環境・福祉環境、教育など、こどもと家族を取り巻く「人と環境の質」が保証されることが必要です。

 こどもが産まれることは家族のが新たな責任を抱えることであり、子どもに障害などがある場合や家族を取り巻く社会からの支援が十分でない場合には、家族の子育ては困難さを増していくことが予想されます。

 

 

 子どもをめぐる法律には、福祉や療育にかかわる「児童福祉法」、保健や医療にかかわる「母子保健法」、家庭や地域にかかわる「児童虐待防止法」や「子どもの貧困対策推進法」、教育にかかわる「教育基本法」や「発達障害者支援法」などたくさんの法律があります。

 これらの法律は、相互に関連がありますが、別々に対応されることが多く、これらを連携してより良い支援を行うために、2018年12月14日に「成育基本法」という法律が公布されました。

 

「児童福祉法」とは?

 初めて児童福祉法が制定されたのは、戦後間もない1947(昭和22)年です。戦争で親を亡くした孤児たちを救済し、子どもの健やかな成長と最低限度の生活を保障するために児童局が新設され、同時に「児童福祉法」が制定されました。

 それ以後、この法律は現在まで子どもたちの健康で安全な暮らしの実現に向けて改正が行われてきました。児童福祉法の中には子育て支援について定められているものだけでなく、障害児の福祉サービスについて基本的な考え方などが定められており、発達支援や障害福祉に関連している大切な法律なのです。

 

 児童福祉法は、総則・実体的規定・雑則・罰則の4つで構成されています。

 法律は八章からなり、そのうち第一章が総則、第二章から第六章が実体的規定、第七章が雑則、第八章が罰則となっています。

 総則では、国や地方自治体は保護者とともに子どもの健やかな成長に対する責任があることが述べられています。また、福祉に重要な役割を持つ児童相談所児童福祉審議会の役割、保育園で働く保育士、児童相談所に配置される児童福祉司、市町村に配置される児童委員3つの資格についても規定されています。

児童福祉法によって定められている支援

 児童福祉法では支援事業給付金が定められています。

 主な支援事業としては、小児慢性特定疾患への支援、保護者が何らかの理由で日常的な養育や保育が難しい場合の「子育て短期支援事業」や「一時預かり事業」などニーズに合わせた多様な保育支援事業が用意されています。

 

 

 障害児支援については、児童発達支援医療型児童発達支援放課後等デイサービス及び保育所等訪問支援などの通所支援と入所支援についてその給付とともに定められています。

 

 また、虐待が見つかった場合の措置や支援を定めています。また、児童を保護する里親に関する規定や施設等への入所措置等をされた子どもに対する施設職員等による虐待の防止についても定められています。

児童福祉法によって定められている児童福祉施設とは?

 児童福祉施設は、児童福祉に関する事業を行う施設のことです。

 児童福祉法で児童の支援施設として定められている児童福祉施設は14施設で、児童福祉、母子支援に関する施設と障害のある子どもに対する施設などが含まれています。

 

 

 乳児院児童養護施設では、保護者のいない子どもだけでなく、最近では虐待を受けて保護されてくる子どもの入所が増えています。

 障害を持つ子どもの福祉施設としては知的障害児盲ろうあ児肢体不自由児、心理治療を必要とする自閉症などの子どもの施設や、重度の知的障害と肢体不自由が重複する重症心身障害児施設が含まれます。

 また、犯罪や非行に関連した子どもの指導と自立を支援する児童自立支援施設や地域の福祉問題の援助や児童相談所や児童福祉施設との連絡調整などを総合的に行う児童家庭支援センターも含まれます。

児童福祉法に定められている児童相談所とは?

 児童相談所は子どもに関する問題の解決のために設置される専門的な相談機関で、児童福祉司、児童心理司、医師などの専門家から構成され、すべての都道府県と政令指定都市に設置されています。児童相談所は子育ての悩み、障害児福祉、虐待の対応など18歳未満の子どもに関することであれば、本人だけでなく誰でも相談することができます。

 

広島県の家庭センター(児童相談所)

機関名 電話番号 担当地域
西部こども家庭センター 082-254-0381 呉市、竹原市、大竹市、東広島市、廿日市市、安芸高田市、江田島市、北広島町、安芸太田町、府中町、海田町、坂町、熊野町、大崎上島町
東部こども家庭センター 084-951-2340 三原市、尾道市、福山市、府中市、世羅町、神石高原町
北部こども家庭センター 0824-63-5181 三次市、庄原市
広島市児童相談所 082-263-0694 広島市
児童相談所 全国共通ダイヤル 189 発信地域の子ども家庭センター(児童相談所)へ自動的に電話が繋がります。
改正児童福祉法

 改正児童福祉法は202268日に国会で成立し、一部を除いて令和64月に施行されます。今回の改正では子育て世帯に対する包括的な相談・支援に当たる体制を強化するため、市区町村に対し「こども家庭センター」を設置するよう努力義務を課しています。

 また、児童相談所が虐待を受けた子どもの「一時保護」の際に、親の同意がない場合には裁判所が必要性を判断する「司法審査」を導入するとしています。

 また、障害のあるお子さんの入所できる年齢制限を弾力的に考えること、施設を出て地域で暮らす場合には22歳までの入所継続を可能としています。

 児童の意見や権利を守るための環境整備を整えることやわいせつ行為などで登録を取り消された保育士の再登録を厳格化するなど、子どもの権利に配慮したものとなっています。

 

母子保健法と子育て世代包括支援センター

 

 1947(昭和22)年に制定された児童福祉法のうち、子どもの健全な発育に重要なお母さんの健康と乳幼児に対する保健の充実を目的として、1965(昭和40)年に母子保健法が制定されました。それに伴って、「母子手帳」は「母子健康手帳」という名称に改められ、子どもの健康診査や保健指導等のなどについてのさまざまな施策が行われるようになりました。保健法と児童福祉法は子どもの健康と福祉を守るという点において重なっている部分が多くあります。

子育て世代包括支援センター

 子育ての世代が求める支援はそれぞれの家族の状況や子どもの年齢などによって様々です。

 妊娠初期から子育てのそれぞれの段階に応じた適切な支援の情報や助言を行うことを目的に、平成29年(2017年)の児童福祉法と母子保健法改正に伴って、同年4月から子育て世代包括支援センターを市区町村に設置することが努力義務とされました。センターは平成26年度から実施されていた妊娠・出産包括支援事業や平成27年度から開始された子ども・子育て支援新制度を含めた機能を担うものとされています。

 子育て包括支援センターは、今までほとんどが個別に対応していた子育てに関する相談を一括して行うことができるため、継続的に子どもの状況を把握でき切れ目のない支援が可能になります。

 

 

 

 広島県内の市町子育て世代包括支援センターは令和4年7月1日現在76か所あります。広島県のホームページに紹介されていますので参考にしてください。

 

子育て世代包括支援センターについて| 広島県(hiroshima.lg.jp)

 

「成育基本法」

 「成育基本法」は、正式名称は「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」といいます。お母さんのお腹の中にいる時から、小児期、思春期を経て大人になるまでの過程において、子どもたち一人ひとりの健やかな発育を目指し、必要な医療以外にも教育、福祉等の幅広い分野で子ども・子育てのサポートをさらに推進するための法律です。

 これまであった「児童福祉法」「母子保健法」「児童虐待防止法」など子どもに関する法律での施策の連携を強化させるとともに、望まない妊娠を防ぐ性教育や健康教育などの啓蒙活動、妊産婦の自死を防ぐなどのメンタルヘルス事業や周産期母子健診事業などの母子保健の強化等のほか、死因の収集・分析管理によって防ぐことができる子どもの死の予防などの施策が期待されます。

 成育基本法では毎年1回、こうした施策の実施状況を公表し、計画そのものも「少なくとも6年ごと」に見直されることになっています。

 

さいごに

 子どもを育てる上では、様々な問題にぶつかります。ご両親で話し合ったり、友達に相談したりで解決できることも多いかもしれません。

 問題がなかなか解決できない場合には、保健師さんなどの専門的な知恵を借りるのも大切です。一人で抱え込まないで、近くの子育て包括支援センターや児童相談所に連絡してみてくださいね。

 

ではまた。Byばぁばみちこ