【連載ばぁばみちこコラム】第四十一回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症-双胎- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

「お母さん。お腹の赤ちゃん、ふたごですよ。」と産婦人科で言われたら、驚き、喜びとともに、戸惑いの気持ちを持たれるのではないでしょうか?
 双胎(ふたご)の妊娠は、単胎(ひとりだけ)の妊娠に比べて、妊娠中に様々な合併症が起こりやすくなり、注意が必要です。

多胎の赤ちゃんはどれくらいの割合で生まれるのでしょうか?

 日本人の自然妊娠では、双胎は100回に1回くらいの割合でおこるといわれています。

 一卵性双胎は人種差が少ないのですが、二卵性双胎はお母さんの体質や遺伝など、明らかな人種差があり、日本人や中国人が約400回に1回の出産であるのに対して、白人は150回に1回、黒人では25回に1回の頻度とされています。

不妊治療と多胎妊娠をめぐる日本の現状

 多胎妊娠は不妊治療と深い関係があります。

 日本では、1975年から排卵誘発剤の注射による不妊治療が始まりました。その後、1983年から体外受精が開始され、品胎(三つ子)以上の赤ちゃんの出生が増加しました。

 日本初の「山下家の五つ子ちゃん誕生」が報道されたのは1976年でした。

 多胎妊娠では、切迫早産や妊娠高血圧症候群など、お母さんと赤ちゃんともにリスクのある合併症が増加します。多胎妊娠を防ぐ目的で、1996年に日本産婦人科学会から体外受精によって母体に戻す受精卵は3個以内に制限するよう勧告が出されました。

 

 

 現在、体外受精などの不妊治療の技術はめざましく進歩し、治療成績と安全性が向上しています。不妊治療にともなう多胎妊娠のリスクを減少させるために、2008年4月12日に、母体に移植する胚は原則として一個とすること(35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠が成立しなかった場合には2胚移植を許容)との見解が出されました。

 1995年から2018年のわが国の多胎の出生数をみると、2004年の13,215人を最高として、2008年の勧告以降、多胎数は減少し、2018年の出生数は9,745人と2004年の約3/4になっています。

初めて子どもを産むお母さんの年齢が高くなっている;不妊治療と双胎妊娠

お母さんの初産年齢と初産数

 お母さんが初めての子どもを産む年齢は、年々高くなっています。

 1980年以前は、約9割のお母さんは、20歳代に第Ⅰ子を産んでいましたが、2010年以降、20歳代に第Ⅰ子を産むお母さんは、半数以下になっています。また、それに伴って一年間に生まれる第Ⅰ子の数は年々減少しています。2017年に産まれた第1子は438,020人で、最も多かったいわゆる第2次べビーブームの時の865,866人の約半分になっています。

お母さんの年齢と不妊治療

 1980年代までは、満30歳以上を高齢出産と呼んでいましたが、晩婚化によってお母さんが初めての子どもを産む年齢が次第に高くなり、現在、日本産科婦人科学会では35歳以上を高齢出産としています。

 お母さんの年齢が高くなるほど自然妊娠が難しくなり、不妊治療を受ける確率が高くなります。諸外国と比較すると日本では不妊治療を受けるお母さんの年齢は高く、約8割は35歳以上で、40歳以上のお母さんも40%以上となっています。

 体外受精によって出生する赤ちゃんの数は年々増加しています。2007年から2017年の出生数を見てみると、出生数は約3倍に、また、総出生数に占める体外受精での割合も高くなり、2017年では6%、約15人に1人の赤ちゃんが不妊治療で生まれていることになります。

 

 

多胎妊娠はハイリスク妊娠である !!!

 双胎を含めた多胎妊娠はハイリスク妊娠であり、単胎児の妊娠に比べて色々なトラブルを起こす可能性が高いため、できるだけ周産期センターなどの高度な医療環境が整っている医療機関での出産が望まれます。

 双胎は、卵性診断によって一卵性双胎と二卵性双胎にまた、膜性診断によって一絨毛膜双胎と二絨毛膜双胎に分けられます。

 その中で、膜性診断が予後に関係しており、赤ちゃんの「膜性診断」を知っておくことが大切です。

卵性による双胎の分類

 1つの卵細胞が1つの精子と受精した後に、2個に分かれ、それぞれが1人の赤ちゃんとして発育するものを一卵性、同時に2個の卵細胞が排卵され、別々に受精・着床し発育したものを二卵性双胎と言います。

 

 

膜性による双胎の分類

 一卵性双胎は、受精卵が分割する時期によって、二絨毛膜二羊膜双胎、一絨毛膜二羊膜双胎、一絨毛膜一羊膜双胎の3つに分類されます。一方、二卵性双胎は必ず二絨毛膜二羊膜双胎ですが、時に癒着により胎盤が1つのこともあります。

 

 

 周産期の死亡や後遺症などの予後は、一絨毛膜一羊膜双胎が最も悪く、一絨毛膜二羊膜双胎、二絨毛膜二羊膜双胎の順に良くなります。

 双胎妊娠では、妊娠初期の膜性診断が、その後の管理に重要ですので、妊娠10週前後で超音波検査によって診断を行うのが望ましいとされています。妊娠週数が進むと、羊膜どうしが膨らみ癒合するため、膜性診断は難しくなります。

双胎が母体に及ぼす影響 双胎による子宮容積の増大循環血液量の増大が原因

  1. 双胎妊娠で、最も多い合併症は流産や切迫早産で、40%程度が早産になります。これは、子宮壁の伸展と子宮の増大によって子宮の収縮が起こりやすくなるためです。
    また、分娩時には陣痛が起こっても、大きくなった子宮が収縮しにくく、微弱陣痛になったり、分娩後に子宮が元に戻りにくいため弛緩出血を起こしやすい傾向があります。
  2. 循環血液量が増大するため、妊娠高血圧症候群は単胎妊娠の約3倍のリスクがあります。
  3. 胎児の発育に必要な鉄需要が増し、母体が貧血になりやすいと言えます。
  4. 妊娠中は安静が必要なことが多く、静脈血栓塞栓症が単胎より発症しやすくなります。

 

双胎が胎児に及ぼす影響

 双胎では、膜性に関らず、早産のために低出生体重児で生まれることが多くなります。

 一絨毛膜双胎で最も問題となるのは、双胎間輸血症候群です。胎盤をふたりの赤ちゃんが共有しているために起こるもので、二人の間の血管の吻合(つながり)によって、血液の流れのバランスがくずれて起こります。約15%の一絨毛膜双胎の赤ちゃんに認められると報告されています。

 さらに、一絨毛膜一羊膜双胎では双胎間輸血症候群とともに、羊膜が一つで、その中で、二人の赤ちゃんが自由に動き回っている間に、臍帯が絡み合い、急激に血液の流れが遮断されることがあります。一絨毛膜一羊膜双胎は、単胎妊娠の実に100倍ものリスクがあるとされ、双胎妊娠の中でも、最も厳重な母体管理が必要とされます。

双胎間輸血症候群

 双胎間輸血症候群は一人の赤ちゃんだけではなく、両方の赤ちゃんに影響があります。

 一つの胎盤を共有している一絨毛膜双胎では、赤ちゃんはそれぞれの血管が一つの胎盤とつながっており、胎盤と胎児の間を血液が行ったり来たり流れています。胎盤に吻合血管があり、血液の移動が一方向になると、このバランスが崩れて循環不全が生じます。

 妊娠中期の発症では、治療を行わないと児の死亡率がきわめて高いだけでなく、生存しても脳神経障害を残す可能性があります。

 

 

 受血児(血液をもらう方の赤ちゃん)は循環血液量が増加し、心臓に負荷がかかり、うっ血心不全を生じるとともに、尿量が増えることによって、羊水過多を起こします。最終的には、全身のむくみや胸水や腹水がたまる「胎児水腫」という状態となります。

 供血児(血液をあげる方の赤ちゃん)は、循環血液量が減少し、子宮内での発育が遅れるとともに、尿量が減少することによって羊水が少なくなります。羊水腔の不均衡は次第に進行し、供血児は子宮壁に押し付けられ、さらに大きくなることができなくなります。

双胎間輸血症候群の重症度分類と予後

 

 双胎間輸血症候群のステージ診断としてQuinteroの分類が一般的に用いられています。

ステージが高くなるほど児の予後は悪くなります。

 StageVで一人の赤ちゃんがお腹の中で亡なると、胎盤での吻合血管を通じて、生存している赤ちゃんから亡くなった赤ちゃんへ急速に血流が流れ込むため、生きている赤ちゃんが亡くなったり、急性の虚血によって脳や全身の臓器障害を引き起こす可能性があります。お母さんに特有の症状はありませんが,赤ちゃんが亡くなると胎動の減少を感じることがあります。

双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術とは?

 双胎間輸血症候群の原因である胎盤の吻合血管をレーザーで焼却凝固することによって、ふたりの間の循環を遮断するもので、双胎間輸血症候群の根本的治療です。

 

 

 双胎間輸血症候群の診断がついても全ての方に治療を行えるわけではなく、条件を満たしたお母さんがこの治療の対象になります。

 お母さんと胎児に麻酔を行った後、お母さんの腹壁に皮膚切開を加え、羊水が多い受血児の羊水腔に針を挿入します。針の中に内視鏡を挿入し、胎盤表面の吻合血管を焼灼します。

 治療がうまくいけば、妊娠が継続でき、赤ちゃんの予後も改善します。

 日本での報告ではお母さんが少なくとも一人の生児を得る確率は90%で、両児とも生児を得る確率は66%です。また、赤ちゃん側からみると生存率は80%で、生児を得た場合の神経学的後遺症は最大でも5%と報告されています。

双胎妊娠の管理と分娩

 一絨毛膜双胎では、双胎間輸血症候群や胎内死亡などの合併症が起こることがあり、厳重な管理が必要となります。残念ながら、双胎間輸血症候群の予防法はなく、未然に防ぐのは難しいのですが、早く治療を受ければ無事に出産することも十分可能です。早期発見と治療が大切で、お母さんはお腹の張りや胎動に注意することが重要です。双胎妊娠のお母さんは頻回の受診や、状態によっては管理入院して経過をしっかり見ることが必要になります。特に一絨毛膜一羊膜双胎では、より厳重な管理が必要となります。

 

 

 分娩は双胎妊娠だからといって、必ず帝王切開が必要であるいう訳ではなく、両児とも頭位の場合には経腟分娩が可能です。双胎妊娠は分娩経過中に急に帝王切開が必要になったり、まれには、第一子を経腟分娩した後、第二子のみ帝王切開となることもあります。

 緊急での帝王切開などに備え、新生児科、麻酔科や手術室スタッフなどの体制が整った施設での分娩が安全です。

産まれた後の育児支援の大切さ

 

 多胎を妊娠しているお母さんは、妊娠中にも長期の安静入院など、心身ともに不安を抱えています。また、低体重での出産や二人の子どもの発達の違い、経済的な負担の大きさなど、育てていく上で多胎のご家庭には特有の困難さがあります。

 厚労省は2020年度、産前・産後サポート事業の中に、初めて「多胎妊産婦への支援」を盛り込みました。わが国では1990年頃より保健所が主催する多胎育児教室が始まり、2000年以降、地域の多胎サークル同士の連携を中心に、保健行政機関などとの連携が始まりました。広島での多胎児サークルとしては1993年に発足した「ピーナッツ・フレンド」があります。広島市と廿日市市を拠点に活動をしており、ふたご以上の子どもとその家族が、会員相互の親睦を通じて、育児に対する悩みや不安をお互いに語り合う場となっています。

さいごに

 街を歩いていると、可愛いふたごを乳母車に乗せたお母さんを見かけます。「よく頑張ったんだね。」と心の中で声をかけています。

 子育ての悩みや喜びを一緒に語り合え、もっと子どもを大切にできる社会になれることを願っています。

 

 辛い思いをする人がいませんように。

ではまた。Byばぁばみちこ