【連載 ばぁばみちこコラム】第三十三回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症―血小板減少症― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 血小板は血液を固め、出血を止める重要な役割を持っています。お母さんに特発性血小板減少性紫斑病があると、生まれた赤ちゃんの血小板が減少し問題になることがあります。

血小板はどのように作られているのでしょうか?

 

 血小板は骨髄で作られています。骨髄の中には造血幹細胞というすべての血液細胞を作るもとになる細胞があります。造血幹細胞からは血小板だけでなく、赤血球や白血球などすべての細胞が作られています。

 血小板は、造血幹細胞が巨核芽球から巨核球になった後、巨核球の細胞質がちぎれてできたものです。そのため細胞質だけでできており、核を持っていません。

 また血小板1つ1つの大きさも一般の細胞よりはずっと小さく、形もさまざまです。通常の血液中には、10~40万/μL程度の血小板が含まれています。

 血小板の寿命は3~10日と短く、脾臓などで主にマクロファージという細胞に取り込まれて壊されます。

 また、血小板の産生は肝臓で生成されるトロンボポエチンという物質によって促されており、肝炎や肝硬変などで肝臓の線維化が進むと、血小板数は低下します。

 

血小板の役割は血液を固めて出血を止めること !!

 血小板はけがなどの際に、血液を固め、出血を止める働きがあります。

 けがなどで血管が破けると、血液中に含まれる血小板が傷口に集まり、止血します。これが第一段階の「血小板血栓」と呼ばれるものです。

 さらに、血液が凝固するためには、血しょうに含まれている血液凝固因子と呼ばれるタンパク質などが働き、血液中のプロトロンビンをトロンビンに変化させます。

 最終的に、血しょう中のフィブリノーゲンからフィブリンがつくられ、それによって血小板血栓を覆い固め、止血が完了します。これが第二段階の「フィブリン血栓」と呼ばれるものです。さらに、フィブリンが周りの血球を巻き込んで血餅となり、かさぶたになって傷口を覆います。その後、血餅は解けて(繊維素溶解と言います)傷口は治ります。

 

新生児の血小板はどのような場合に減少するのでしょうか?

赤ちゃんの血小板の正常値

 赤ちゃんの血小板数は、在胎週数が短い(早く産まれる)ほど少ない傾向にありますが、成熟児では、その値は成人とほぼ差がなく、血小板数が10万/μL以下は異常と言えます。

新生児の血小板減少の原因

 血小板が減少する原因としては、①骨髄で血小板がうまく作れない ②体内で血小板がたくさん消費されたり、壊されたりしている ③体内での血小板の分布に異常がある ④先天性(遺伝性)の4通りに分けられます。

 産まれたばかりの赤ちゃんの血小板減少は、感染症や重症の仮死など、多くの原因で認められます。出生直後に特異的にみられる血小板減少症との原因として、母親の特発性血小板減少性紫斑病による血小板減少症や、血小板の膜にある抗原の型が母子間で不適合がみられることにより起こる同種免疫性血小板減少症があります。

 

特発性血小板減少紫斑病とは?

 

 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、血小板の数が10万/μL以下に減少する血液の病気です。血小板が減少するため、うまく血を止めることができず、紫斑や点状出血斑、鼻出血などを認めます。

 本来は体を守るために必要な免疫の仕組みに異常がおこり、自分の血小板を攻撃するIgG自己抗体(血小板関連免疫グロブリン呼ばれています)という物質が作られることが原因です。

 この抗血小板抗体が血小板の膜に結合し(オプソニン化と言います)、脾臓などでのマクロファージのFcレセプターで捕獲、貪食され、血小板の破壊が亢進します。

 また、自己抗体は巨核球の成熟を障害することによって、血小板の産生の障害にも関連していると言われています。

 

 日本での特発性血小板減少性紫斑病の患者数は約25,000人と言われており、毎年1,000〜2,000人程度の新しい患者が報告されています。発症の多くが20~40歳で、この年齢での男女比は約1:4と女性に多く、妊娠分娩時の合併症として注意が必要です。

 

 特発性血小板減少性紫斑病は病状の経過により、「急性型」「と慢性型」に分けられています。

 5歳以下の子どもに多い急性型は、ウイルス感染などの後に発症しますが、大半は6 ヵ月以内に自然に治ります。一方、成人に発症した特発性血小板減少性紫斑病の9割は、急性型から慢性型に移行し、長い間治療が必要です。

診断

  紫斑や点状出血斑、歯肉出血、鼻出血などの症状がみられ、血液検査で血小板数が10万/μL以下の場合、赤血球系や白血球系などには異常がなく,かつ血小板減少をきたす他の病気が否定されれば、特発性血小板減少性紫斑病と診断されます。白血病などのほかの病気と区別する必要がある場合には骨髄検査が行われることもあります。

治療

 特発性血小板減少性紫斑病の治療の目標は、血小板数を正常化することではなく、重篤な出血を予防するのに必要な血小板数を維持することです。血小板数と出血症状の程度、手術予定、ライフスタイルなどにもとづいて、治療適応が決められます。

 

 治療には、大きく分けて、血小板の破壊を抑えることを目的とした治療(ステロイド療法や脾臓の摘出術)と、血小板の産生を増やすことを目的とした治療(トロンボポエチン受容体作動薬による治療)などがあります。

 

①ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法

 近年、特発性血小板減少性紫斑病の患者さんで、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌を行うと、50~70%で血小板数が増加することが明らかとなり、陽性の場合にはまず除菌を行うことが勧められています。除菌がうまくいけば50~70%の人で血小板数の増加がみられます。

 

②副腎皮質ステロイド療法

 副腎皮質ステロイド療法は最初に行われる治療です。副腎皮質ステロイドは、抗血小板自己抗体の産生を抑えるとともに、抗体が結合した血小板の破壊を抑える作用があります。

 ステロイド療法を開始すると、約8割の患者さんは、開始から数日~数週間で血小板数の増加が認められますが、多くの人はステロイドを減らすと血小板数は減少し、実際にステロイドを中止できるのは約1 ~2割です

 

③脾臓摘出術

 血小板数の回復を図る手術です。脾臓を摘出することによって、約8割の患者さんは、術後1~24日で血小板数の増加が認められ、約7割のでは、血小板減少が持続的に改善され、ステロイドなどの治療が不要になります。

 

④難治例に対する治療

 ステロイド療法や脾臓摘出などの治療を行っても、血小板数を出血の危険が少ないレベルまで維持できない人は10%程度存在します。

 血小板を増やす治療薬として、トロンボポエチン受容体作動薬や血小板を攻撃する抗体を減らす治療薬として抗CD20モノクローナル抗体などが用いられています。

 

⑤緊急時、外科治療時の治療

 脳内出血、消化管出血などがみられる場合や、手術や分娩の前、血小板数が1万/μL以下などの場合には、免疫グロブリンの大量療法や血小板の輸血、ステロイドパルス療法などの治療が行われます。

 手術や分娩の前など出血が予想される場合には、目標となる血小板数となるように治療が行われます。

 

 

特発性血小板減少紫斑病のお母さんから出生した赤ちゃんへの影響

 

 お母さんの自己抗体は、胎盤を通過して胎児に移行し、出生した赤ちゃんに血小板を減少させ、出血傾向、紫斑、頭蓋内出血などを引き起こす可能性がありますので、お母さんだけでなく、生まれてくる赤ちゃんにも注意が必要です。

 特発性血小板減少性紫斑病の母体から生まれた赤ちゃんで、血小板数が5万/μL以下である頻度は約10%、出血の危険性のある2万/μL以下は約5%です。血小板数は出生後2~5日でさらに減少し、その後も遷延することがありますので、血小板の推移に注意が必要です。

 

①お母さんが妊娠前に特発性血小板減少性紫斑病と診断されている場合

 妊娠中は血小板数を3万/μL以上、自然分娩では5万/μL以上、帝王切開では8万/μL以上を目標に管理し、妊娠中に2~3万/μL以下になった場合には治療が必要です。

 

②母体が妊娠前に特発性血小板減少性紫斑病と診断されていない場合

 妊娠中にお母さんに血小板減少がみられる頻度は約10%で、その約70%は妊娠に伴う血小板減少症で、血小板数は7万/μL以上であることが多く、赤ちゃんへの影響はありません。血小板数の低下が続く場合には、特発性血小板減少性紫斑病の可能性も考え検査を行うことが必要です。

 

特発性血小板減少紫斑病のお母さんの分娩時の注意

 分娩様式は、原則的に経腟分娩で大丈夫です。血小板数5万/μL以上であれば、自然分娩時に特別な処置は必要ないとされています。新生児の出血、特に脳内出血を避けるため、分娩時には鉗子や吸引分娩などを避けたほうが安全です。

 帝王切開が必要な場合には、8万/μL以上の血小板数を保つ必要があります。産科的適応がなければ、特発性血小板減少性紫斑病であるというだけで、帝王切開の適応にはなりませんし、帝王切開によって赤ちゃんの脳内出血を回避できるという根拠は確認されていません。

 

さいごに

 血小板数が少ないと赤ちゃんだけでなく、お母さん自身も出血のリスクがあります。妊娠、分娩にあたっては、産科と小児科、血液内科の医師から十分な説明を受けてくださいね。

 この病気は、国の難病指定を受けており医療費助成制度の対象になっています。

 

 特発性血小板減少性紫斑病に関する詳しい資料は以下のサイトを参考にしてくださいね。

 

「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019年版」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_article/-char/ja/

 

「妊婦合併特発性血小板減少紫斑病診療の参照ガイド

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/55/8/55_934/_article/-char/ja/

 

ではまた。  Byばぁばみちこ