【連載 ばぁばみちこコラム】第二十九回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―クラミジア― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 お母さんのクラミジア性感染症は、産道で赤ちゃんへの感染を起こす可能性があります。赤ちゃんの感染を予防するためには、妊娠中のお母さんのスクリーニング検査と治療が大切です。

クラミジア感染症とは?

 お母さんのクラミジア性感染症は、クラミジアトラコマチスという細菌によっておこります。感染症法で、クラミジア性感染症は、淋菌、性器ヘルペスウイルス、尖圭コンジローマによる性感染症とともに、定められた医療機関から保健所への報告が義務づけられている5類感染症に指定されています。

 男性では尿道に、女性では子宮頸部に主に感染します。男性では排尿時の痛み、尿道の不快感や粘液膿性の分泌物などの自覚症状がみられることもありますが、女性ではほとんど症状がない場合もあります。

 妊婦検診では、正常妊婦の3〜5%がクラミジアを保有していると言われており、自覚症状のないお母さんはかなりいるのではないかと思われます。

 

性感染症患者の年次推移

 梅毒以外のわが国の性感染症の報告数の年次推移をみると、クラミジア性感染症が最も多くみられています。

 

性別・年齢別にみたクラミジア性感染症患者の特徴

 厚生労働省からの発生動向調査にもとづく報告では、クラミジア性感染症は平成14年をピークとして減少傾向にありますが、ここ10年はほぼ横ばいで、最近の数年は男女ともほぼ同数の感染がみられています。

 女性では、感染しても自覚症状に乏しく、知らない間にパートナーへ感染させる可能性があり、注意が必要です。年齢別で、20~29歳での感染が最も多く、次いで、30~39歳となっています。この年齢は妊娠を迎える時期でもあり、お母さんから赤ちゃんへの産道感染が心配されます。

 

 

 

クラミジア性感染症は自覚症状が出にくい!!

 

 男女ともに、感染してもほとんど自覚症状がみられないことが多いのが特徴で、気づかずないうちに感染を拡げてしまう危険性があります。

<男性のクラジミア感染症の症状>

 男性では尿道炎が最も多くみられ、排尿時の痛みや尿道の違和感、尿道から膿が出るといった自覚症状が見られることがあり、女性に比べて、症状が現れやすい傾向にあります。


<女性のクラジミア感染症の症状>

 女性では、自覚症状はあまり見られませんが、子宮頚管炎(子宮の入り口の炎症)が起きると、少量の出血が混ざった水様性のおりものが増えることがあります。また、尿道や膀胱に菌が入ると、膀胱炎を引き起こし、頻尿や排尿時の痛みなどの症状がみられることもあります。

 さらに、炎症が拡がって「卵管炎」を引き起こすと、将来的に卵管の閉塞を起こすことがあり、不妊症や子宮外妊娠のリスクが高くなります。

 

クラミジア性感染症の赤ちゃんへの影響は?

①流早産のリスクが上がる

 妊娠初期~中期のクラミジア感染症では、胎内で赤ちゃんを包んでいる絨毛膜や羊膜に炎症が及び、早産や流産になる可能性があります。

②産道感染を引き起こす

 お母さんがクラミジア感染症の治療をしていない場合、出産時に産道で赤ちゃんが感染する確率は20~40%といわれています。感染した赤ちゃんは生後3ヶ月以内(通常は生後数週間以内)に肺炎や結膜炎の症状を発症する可能性があります。

 

<新生児結膜炎>

 まぶたの腫れ、多量の膿を含んだ目やにがでます。

 

<肺炎>

 クラミジア肺炎を発症する頻度は3~20%といわれており、肺炎を発症する前に多くは鼻炎や結膜炎の症状がみられます。

 クラミジア肺炎は発熱がほとんどないのが特徴で、呼吸が荒く、痰を伴った激しい咳とゼーゼーという雑音を含む喘鳴がみられます。呼吸困難によって哺乳力が低下します。体重が少なく産まれた赤ちゃんでは重症化します。

 

クラミジア性感染症の診断 検査方法は2つ

①患者の検体(尿道、膣、咽頭)にクラミジアトラコマチスがいるかどうかを確認する方法

 検体のDNAを増やして菌がいるかどうかをみる検査方法です。

 男性では尿またか尿道の細胞を、女性では子宮頚管の分泌物を取って検査します。また、咽頭感染が疑わしい時は喉の奥を直接こすった分泌物やうがい液で検査を行います。

②血液の抗体の値から、感染の有無や、感染してからの時間を推定する方法

 クラミジアの検査では「IgA抗体」と「IgG抗体」の値を測定します。抗体の検査のみで感染を判断することは難しく、①の結果と合わせて判断します。

 

 

妊娠中のクラミジア性感染症のスクリーニングと治療

 クラミジアによる母子感染を予防のために、平成22年に厚労省からの通達により、妊娠中のクラミジア検査が妊婦の感染症検査の対象となりました。スクリーニングの方法については産婦人科学会からガイドラインが出されています。

 検査時期については、一致した見解はないものの、陽性がわかったお母さんの治療時期などを考慮して、妊娠30週頃までに行っておくことが勧められています。

 

 治療にはマクロライド系などの抗菌薬が使用されます。

 クラミジアは男女間でお互いに感染させるいわゆるピンポン感染があるため、お互いの治療を同時に行うことが必要です。治療後に再検査を行い、結果が「陰性」できれば「完治した」といえます。

 

 

さいごに

 クラミジアによる母子感染は予防することができます。妊娠中にクラミジア検査で感染が分かったママは、パパと一緒に治療を受けてくださいね。治療をすれば治ります。元気な赤ちゃんが、あなた方のもとに生まれてきますように。

 

ではまた。      By ばぁばみちこ