【連載 ばぁばみちこコラム】第二十七回 赤ちゃんに問題となる感染症―B型肝炎ウイルス― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 日本でB型肝炎ウイルスに感染している人の多くが、母子感染によるものであることをご存知ですか?お母さんがB型肝炎ウイルに感染していると、産道で血液を介して赤ちゃんに感染することがありますが、子どもへの感染は出生直後の処置で防ぐことができます。

B型肝炎ウイルスとは?

 

 B型肝炎ウイルスは中心に遺伝情報があるDNAを持ち、その周りを芯と外殻が取り囲む二重構造になっています)。

 B型肝炎ウイルスは比較的感染力の強いウイルスで、血液や体液を介して感染します。

 

 人に感染すると肝臓の細胞で増殖しますが、その際にウイルスを排除しようとする免疫機能によって肝細胞が破壊され、肝炎を起こします。

 

B型肝炎ウイルスの感染経路

 

 B型肝炎ウイルスは、ウイルスに感染している人の血液や体液を介して感染します。

 そのうち、最も重要な感染経路は、ウイルスに感染しているお母さんから赤ちゃんへの感染(母子感染:垂直感染)です。

 

母子感染(垂直感染)

 日本のB型肝炎ウイルスの感染者は110万~140万人と言われています。大半はB型肝炎ウイルスの感染予防対策が行われる以前の母子感染によるものです。現在では母子感染防止策が行われるようになり、新たな母子感染はほとんど起きていません。

 産まれたばかりの赤ちゃんは免疫機能が未熟で、ウイルスを異物と認識できません(免疫寛容状態と言います)。またウイルスを排除する能力も弱いため、症状のないままB型肝炎ウイルスを持続的に体の中に持ち続ける「無症候性キャリア」と呼ばれる状態となります。

 

水平感染

 もう一つの感染経路として、B型肝炎ウイルスに汚染された血液や血液製剤の使用、予防接種での注射器の使いまわしなどによる水平感染があります。現在では血液製剤のチェックや使い捨ての注射器などの普及によってほとんどこのような感染は起きていません。

 その他、性交渉による感染もあります。パートナーがB型肝炎ウイルキャリアの場合には、あらかじめB型肝炎ワクチンの接種を行っておけば感染を予防することができます。

 成人がB型肝炎ウイルスに初めて感染すると、70~80%は自然に治りますが、20~30%の人では、急性肝炎、1~2%の人では、劇症肝炎を発症し、時に死に至ることもあります。

 

B型肝炎ウイルス母子感染の自然経過 (予防を行わなかった場合)

 無症候性キャリアとなった子どもは、成長に伴って免疫機能が発達しB型肝炎ウイルスが排除されるようになると、同時にウイルスに感染した肝臓細胞の障害が引き起こされます。

 その結果、無症候性キャリアの約10~15%の人が慢性肝炎へ移行します。B型慢性肝炎になっても症状はありませんが、放置すると肝硬変、肝がんへと進行する危険性があります。

 
 また、B型慢性肝炎にならなかった非活動性のキャリアの場合でも、知らないうちにウイルスが活発になる可能性があり、定期的に検査を行うことが大切です。

 

B型肝炎ウイルスの検査

 ウイルスなどの異物(抗原)が体内に入ってくると、これを攻撃する物質(抗体)が人の体の中でつくられます。 この抗原や抗体のことを「ウイルスマーカー」と呼んでいます。

 「B型肝炎ウイルスマーカー検査」とは、B型肝炎ウイルスの抗原と、それに対する抗体を血液検査によって調べ、感染の程度や治療経過と予後を判断する検査です。

 


 
 セロコンバージョン

 B型肝炎の予後を判定する上で重要なのが、セロコンバージョン(抗原から抗体に移り変わること)と言われる状態です。検査でHBe抗原が陰性、HBe抗体が陽性になり、B型肝炎ウイルスの活動が免疫機能によって抑え込まれ、肝炎が治まった状態と考えられます。

 

B型肝炎ウイルスの母子感染予防

 

 母子感染を予防するために、妊娠中に最初に調べるのが、HBs抗原(B型肝炎ウイルスを持っているか?)で、通常の妊娠初期の感染症検査に含まれています。

 検査の結果、HBs抗原陽性の場合はHBe抗原の検査を行います。HBe抗原が陽性の場合は肝臓でウイルスが活発に増殖していることを示しており、産道感染の危険性が高くなります。

 

 日本では、1985年から「B型肝炎ウイルス母子感染防止事業」が開始され、妊婦のHBs 抗原検査が公費で行われることになりました。HBs 抗原が陽性の場合にはさらに HBe抗原検査を行い、陽性のお母さんから生まれる赤ちゃんを対象に、1986年から公費によるB型肝炎ワクチン接種、抗B型肝炎ウイルス人免疫グロブリンの投与が開始されました。

 
 1995年4月以降は、対象がHBe 抗原の陽性、陰性にかかわらず、すべての B型肝炎ウイルス キャリア妊婦からの出生児に拡大され、それに伴う検査やB型肝炎ワクチンと抗B型肝炎ウイルス人免疫グロブリンの投与が健康保険で行えるようになりました。

 

 2013年10月に投与方法が改定され、現在は上記のプログラムに沿って投与がされています。

 赤ちゃんに対する予防は、出産後できるだけ早い時期に、できれば生後12時間以内に始めることが望まれます。そのために出産の前に予防方法についてご両親への説明が行われます。

 抗B型肝炎ウイルス人免疫グロブリンの接種を1回、B型肝炎ワクチン接種を3回行うと、90%以上の赤ちゃんでB型肝炎ウイルスの感染を防ぐことができます。また、お母さんは母乳哺育を行うことができます。

 防止できたかどうかは生後9~12か月で血液検査を行い、HBs抗原と抗体検査を行って判定が行われます。抗体が十分でない場合には追加のワクチン投与が必要です。また。防止できなかった場合には、子どもは小児科医で定期的に診てもらう必要があります

 もし、予防ができなかった場合でも、どうぞお母さんは自責の念などを持たないでください。

 

B型肝炎ウイルス水平感染予防とB型肝炎ワクチンの定期接種について

 B型肝炎は、母子感染だけではなく父子感染や集団生活での水平感染が起こることもあります。また、海外からの感染の機会も増加しており、母子感染以外の感染を防ぐ必要があります。

 予防のためには日常の生活の中で、血液や体液に接する際の注意が重要です。

 

 

  日本では、近年まで乳幼児へのB型肝炎のワクチン接種は「任意」とされ、定期予防接種には入っていませんでした。

 B型肝炎ウイルスのワクチンは、2012年の厚生科学審議会で「接種が望ましい」と判断され、2016年10月1日から乳幼児全員に定期予防接種とすることが決まり、無料で投与が行われるようになりました。

 対象は2016年4月1日以降に生まれた子どもで、1歳になるまでの間に3回(生後2か月、3か月、7−8か月)のワクチン投与が行われます。3回の接種の効果は20年以上続き、子どもが成人するまでの間、B型肝炎にかかるリスクを抑えることが可能となりました。

 

最後に

 B型肝炎ワクチンは世界の多くの国で定期接種となっています。WHO(世界保健機関)は1992年、B型肝炎ウイルスの撲滅と肝硬変や肝臓がんなどによる死亡をなくすために、生まれたらすぐにB型肝炎ワクチンを定期接種するように提言しています。 

 B型肝炎はワクチン投与によって予防できる病気です。

 辛い思いをする人がありませんように。

 

ではまた。  By ばぁばみちこ