【連載 ばぁばみちこコラム】第二十六回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―B群連鎖球菌― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 B群連鎖球菌感染症は、赤ちゃんの、死亡や後遺症を引き起こす頻度が高い感染症の一つです。
 B群連鎖球菌感染症を予防するためのガイドラインが、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)や日本産婦人科学会を中心に作成されおり、予防を行うことによってほとんどの赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。

連鎖球菌とは?

連鎖球菌は、「連なった鎖」のように見える配列をしたグラム陽性の細菌です。溶血性があり、β型、α型、γ型の3つに分類されており、正式には「溶血性連鎖球菌」と呼ばれています。

 連鎖球菌は、抗原性の違いによって分類がされており、人の病気に関係しているものはA、B、C、D、Gの5群です。

 子育て中のご両親の中には、お子さんが、小児科で「溶連菌感染症」と診断され、登園や登校を控えられた経験がある方がいらっしゃると思います。学校などの集団生活の中で子どもがよくかかる「溶連菌感染症」のほとんどは、A群(β溶血性)連鎖球菌によるものです。

 一方、妊娠中のお母さんが注意しなければならないのは、「B群(β溶血性)連鎖球菌」による感染症です。B群連鎖球菌は、腟や肛門の周りにいる常在菌で、通常は問題となりませんが、出産間近のお母さんがB群連鎖球菌を保菌している場合には、赤ちゃんが産道を通るときに保菌してしまい、感染症を引き起こすリスクがあります。

 

B群連鎖球菌(group B Streptococcus;GBS) とは?

 

 腟や直腸や肛門の周りなどに常在するB群連鎖球菌は、妊娠中のお母さんの10~30%が保菌していると言われています。そのうち、1/3は妊娠中の検査で陽性と陰性を繰り返す間欠的保菌者(自然に消えたり再感染を起こす)です。

 妊婦がB群連鎖球菌を保菌していても、全ての赤ちゃんに感染するわけではなく、赤ちゃんが保菌するのは、B群連鎖球菌を保有している妊婦の約50%前後といわれています。そのうち実際に赤ちゃんがB群連鎖球菌感染症を発症するのは約1%で、大半は保菌のみで、症状を起こすことはありません。
 B群連鎖球菌感染症を発症するリスクが高いのは、早期産児、前回妊娠の出生児がB群連鎖球菌感染症に罹った場合や、分娩時のお母さんに発熱や12時間以上の破水がみられた場合です。

 

母体のB群連鎖球菌検査と新生児感染症の予防

 2017年に正期産新生児の早発型のB群連鎖球菌感染症を予防するための産婦人科診療ガイドラインが示されています B群連鎖球菌は妊娠中には、間欠的保菌がみられるため、妊娠後期の 35~37週で検査を行って、B群連鎖球菌が陽性であることを確認してから治療が行われます。検査は綿棒で分泌物を採取して培養を行います。約1週間程度で結果が分かります。
 培養の結果、B群連鎖球菌の保菌が確認された妊婦では、分娩の4時間以上前からお母さんにペニシリン系の抗菌剤の投与を開始し、赤ちゃんが生まれるまで十分な量の抗生剤を赤ちゃんにいきわたらせることが必要です。ただし、この予防法でも100%の効果が期待できるわけではなく、ごくまれに赤ちゃんがB群連鎖球菌感染症をおこしてしまうことがあります。

 一方、予定帝王切開で生まれる赤ちゃんは、破水や陣痛が起こっていない場合には、感染する心配がないため、お母さんへの抗菌薬の投与は行われません。

 また、前回に出産した赤ちゃんがB群連鎖球菌感染症にかかったことがある場合には、今回の妊娠の検査で、B群連鎖球菌が陰性であっても分娩中に抗菌剤の投与が行われます。

 妊娠中にB群連鎖球菌の検査が行われず保菌状態が不明の場合、破水後18時間以上経過した場合や、母体の発熱など、感染を疑う場合には、同様に抗生剤の投与が必要です。

新生児GBS感染症の臨床症状

 

 新生児B群連鎖球菌感染症は、母体の産道で、赤ちゃんの鼻や口などから入ったB群連鎖球菌が体内で広がり、肺炎や敗血症、髄膜炎などを引き起こすものです。
 お腹の中で赤ちゃんは卵膜によって守られていますが、破水し卵膜が破れると、赤ちゃんがB群連鎖球菌に感染する可能性が高まります。つまり、赤ちゃんが感染するタイミングは、経腟分娩中や陣痛開始前に破水した時です。
 
 新生児のB群連鎖球菌感染症は、その発症時期から、生後1週間以内に発症する「早発型」と、それ以降に発症する「遅発型」に分けられます。
 早発型の初発症状の約80%は呼吸障害で、約8割は産まれて数時間以内の早期に発症します。急激に進行し予後は不良で、治療が遅れると赤ちゃんがなくなってしまうことがあります。

 

 早発型であれば、産院に入院中に症状があらわれるので、抗生物質の投与などが可能です。
 一方、遅発型の場合は退院後に発症することが多いため、発見が遅れないように注意が必要です。発熱や呼吸数が多くなる、ミルクの飲みが悪い、元気がないなどの症状が見られます。

 B群連鎖球菌感染症の臨床像は大きく3つに分けられています。
 羊水感染症型は、出生時から仮死や呼吸障害を認める早発型で見られることが多く、赤ちゃんが生まれる前に破水や母体発熱など、子宮内での感染を疑わせる既往があります。
 また、髄膜炎型は遅発型で多く見られ、比較的ゆっくりした経過で発症しますが、治療が遅れると後遺症を残す可能性があります。

 

最後に

 新生児のB群連鎖球菌感染症は、分娩時に抗菌剤の投与を行えば、ほとんどの赤ちゃんへの感染を防げます。安心して赤ちゃんを産むために妊婦健診は必ず受けてくださいね。
 また、ママが溶連菌の保菌者である場合には、水平感染を防ぐために、赤ちゃんにおっぱいを飲ませたり、抱っこしたりする前には手洗いを忘れないようにして下さい。
 辛い思いをする人がありませんように。

ではまた。  By ばぁばみちこ