【連載 ばぁばみちこコラム】第二十四回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―伝染性紅斑― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 伝染性紅斑は、幼児や学童など子どもに流行する病気で、発疹を伴います。典型的な症状は両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」とも呼ばれていますが、かかっても約4分の1の人では症状がありません。そのため、妊娠中のお母さんが知らないうちに感染してしまうと赤ちゃんが胎内で死亡したり「胎児水腫」という病気を起こすことがあります。

伝染性紅斑(リンゴ病)が流行期に─初感染の妊婦は流産の危険も!

 伝染性紅斑は、春から夏にかけて流行する傾向があります。
 国立感染症研究所感染症疫学センターでは、感染症の発生について調査を行っており、伝染性紅斑についても、全国約3,000カ所の小児科の医療機関から患者の届出を義務づけています。
 伝染性紅斑はほぼ4~6年ごとの周期で大きな流行があり、直近では、2011年と2015年に全国的な流行がありました。2019年も2月下旬の時点で、直近2回の流行時を上回る患者数の増加が報告されており、国立感染症研究では今後の伝染性紅斑の流行への警戒と予防対策を呼びかけています。

 

伝染性紅斑とは?

 伝染性紅斑は、「パルボウイルスB19」というウイルスが原因で起こります。パルボウイルスB19は別名「ヒトパルボウイルス」と呼ばれ、人間にのみに感染します。犬や猫などにもパルボウイルスの感染症がみられますが、これら小動物のパルボウイルスは、人間には感染しません。

 

伝染性紅斑の症状と経過

 飛沫もしくは接触によって感染を起こします。潜伏期間は7~14日で、初期症状として約30%の人で軽度の発熱を伴った風邪症状を示します。この初期症状の時期が最もウイルスの感染力が強く、感染後14日ぐらいたって両頬に典型的な蝶形紅斑が現れる頃には、ウイルスの排泄はほとんどなく、抗体の産生も始まっており、感染力はほとんどありません。その後、四肢に癒合した紅斑が広がり、3~10日持続した後に次第に薄くなります。
 基本的には予後は良好であり、一度感染すると終生にわたって免疫を得ることができます。

 

 

 

 パルボウイルスB19は、人に感染すると骨髄の赤芽球系細胞 ( 赤血球のもとになる細胞 )で選択的に増殖するため、7~10日程度の間は赤血球が作られなくなります。
 成人の赤血球の寿命は約120日と長く、赤芽球系細胞が作られなくなっても問題となることはありませんが、赤血球の寿命が短い溶血性貧血の患者さんなどでは急激な貧血発作を来します。

 

妊婦の伝染性紅斑と胎児への影響

 日本人の妊婦のうち、パルボウイルスB19の抗体を持っている人は約20~50%といわれ、半数以上の妊婦は感染の可能性があります。
 妊婦が初めて感染した場合、約20%でウイルスが胎盤を通過して胎児に感染を起こし、そのうち約25% の胎児が貧血や胎児水腫を起こします。妊娠9~16週での感染が最も危険で、妊娠28週以降での発症は少ないとされています。
 感染から胎児水腫がおこるまでの期間は様々ですが、母体感染から9週以内(その多くは2~6週)での発症が多く見られます。また、胎児水腫は起こっても胎内で一過性に自然に軽快するものから早期に死亡するなど、その経過は様々です。

 

 胎児水腫は、お腹の中にいる赤ちゃんの全身がむくんでいる状態のことです。心臓への負担やむくみの程度の程度は、胎児の超音波検査で確認することができます。

 胎児水腫の原因は、大きく分けてRh型の血液型の不一致などで発症する免疫に関連するものと、感染や先天異常で起こる免疫に関連しないものの2つに分けられます。
 パルボウイルスB19は胎児の赤芽球に感染し、骨髄で赤血球が造られなくなるため、胎児に極度の貧血を起こします。
 赤血球は酸素の運び手であり、胎児は全身に酸素を送るためには、心臓をフル回転させることが必要となります。心臓に負担がかかり続けると最終的には心不全をきたし胎児水腫から胎内死亡に至ってしまいます。

 

 

妊娠中にお母さんが伝染性紅斑に感染した可能性がある場合には?

 

 伝染性紅斑は周囲へ感染する病気ですが、頬が赤くなって伝染性紅斑だと診断がつく時にはすでに感染力を失っています。初期に風邪のような症状が出る時期が最も感染力が強いのですが。この時点で伝染性紅斑だと診断がつくことはまずありません。
 今のところ、パルボウイルスB19の感染を予防するワクチンはなく、母子感染を防ぐ方法も確立されていませんので、妊娠中に感染の疑いがある場合は、産科で胎児の状態を観察していくことになります。

 

伝染性紅斑に感染したかどうかの検査は?

  1. トパルボウイルスB19感染の抗体価測定
    パルボウイルスB19は感染後2週間ほどでIgM抗体の上昇を認め、感染後約3カ月間にわたり陽性が続いた後に陰性化します。一方、IgG抗体はIgM抗体が陽性となった数日後より上昇し生涯にわたり陽性となります。
    パルボウイルスB19 IgG抗体が陽性の人は既感染、陰性の人は未感染と考えることができ、IgM抗体が陽性の人は最近(2~3週以内)伝染性紅斑に感染したことを示しています。

  2. ヒトパルボウイルスB19感染のウイルスDNA検出
    ウイルスDNAの一部を増やして検出するPCR法がパルボウイルス19感染の診断に有用ですが一般的には行われていません。ウイルスDNAは感染後、半年~1年にわたり陽性を認めます。

 

伝染性紅斑の感染が疑われる妊婦の対応

 お母さんが、妊娠中に伝染性紅斑の患者や疑いのある人と接触した場合や、胎児水腫を認めるなど、パルボウイルスB19の感染が疑われる場合には、パルボウイルスB19IgM抗体の測定が行われます。その結果、IgM抗体が陽性の場合には、初感染と考えられますので、胎児感染のハイリスク群として、胎児の感染徴候 (胎児貧血や胎児水腫、心拡大、胎児発育不全、肝脾腫など)について評価をしていくことが必要です。

 

 

さいごに

 パルボウイルスB19の感染症は予防するワクチンや治療のお薬がありません。

 学校や地域で流行がみられる場合、ご家族(特に上のお子さん)の風邪症状に注意し、伝染性紅斑の流行時期には、流行が終息するまで、妊娠中のお母さんは流行している保育園や学校などに立ち入らないなどの注意が必要です。また、主な感染経路は飛沫感染や接触感染なので、手洗いやうがいをこまめに行いましょう。辛い思いをする人がありませんように。

ではまた。  By ばぁばみちこ