糸賀先生に学ぶ 東京大学高齢社会総合研究機構 辻 哲夫

 前年度、糸賀一雄記念未来賞を受賞した際に、ご縁をいただきました糸賀一雄記念財団理事長辻哲夫さま(東京大学高齢社会総合研究機構、元厚生労働省事務次官)からのご寄稿文をご紹介させていただきたいと思います。


 保護者・関係者の皆さまの励みになるご寄稿文です。皆さま、是非、お読みください。
 糸賀先生と辻理事長さまのおもいが、一人でも多くの方に伝わることを心より願っています。

 

 

 

糸賀先生に学ぶ

東京大学高齢社会総合研究機構

辻 哲夫

 

 人生を送る上での大切な価値観を私が体得したのは、糸賀一雄先生の活躍された滋賀県で40年弱前に勤務した際のことである。

 当時、障害について学びたいと願い、多くの施設に泊まったが特に近江学園によくお邪魔した。障害のある人が、最初は人指し指程度の棒に太い輪っかをはめ、順番に細い棒に変え、最後はかなり細い針金状のものに小豆状の白と黒の玉を交互に通すという作業工程の一部を午前中ずっと見せて頂いた。最終的には木工作業ができることを目指して、意思と手の動きを一致させるのに大変時間がかかるのをじっと見守り時々手助けするのである。

 最初の一番太い棒の作業をしている方の傍で、指導員の方にこの方が小豆状の玉をはめられるようになるのにどのぐらいかかりそうかと尋ねると、にこりとしながら3年か4年かかるだろうと答えられた。それを聞いて、はっと気づいたときのことが忘れられない。端的に言えば、その人の場合成長に随分時間がかかるのである。成長の早い遅いや到達点の違いは人間存在の様々な個性であり、その人もその個性の一つである。個性には無限の分布がありどこで線を引くこともできない。人は皆違うけれども成長しようとしており、その尊厳は等しい。そして、重い障害を持つ人ほど支援を受けながら共に生きようとする姿は、つぶさに接すると我々に大きな感銘と勇気を与える。まさしく糸賀先生の言われるように「この子らを世に光に」である。

 このことが分かった時、人間と社会のありようについて自分なりの考えを持てるようになった。障害の本質を理解することこそ、社会のありようを考える上での出発点であり、それを理解する社会こそ正常で健全である。糸賀先生は、「自覚者は責任者である」とも言っておられる。このことに気づかせて頂いた者の一人として、及ばずながら障害についての理解を社会に広める営みに努めるとともに、ここすまネットの皆様に心よりエールをお送りしたい。