【連載 ばぁばみちこコラム】第二十一回 赤ちゃんに問題となる感染症―単純ヘルペスウイルス― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 単純ヘルペスウイルスは感染力が強く、免疫力が下がると再発しやすいウイルスです。多くの人は、幼い頃の感染によって抗体を持っていますが、妊娠中に初めて感染したお母さんや性器ヘルペスを再発したお母さんは、胎児に感染を引き起こす可能性があります。

単純ヘルペスウイルスとは?

 人に感染するヘルペスウイルスは8種類です。単純ヘルペスウイルス1型が起こす病気の代表的なものがくちびるの周りに水ぶくれを発症する「口唇ヘルペス」で、単純ヘルペスウイルス2型が起こす代表的なものは「性器ヘルペス」です。

 

 

 単純ヘルペスウイルスは、初めて感染した後、体内にひそみ続けるという特徴を持っています。

皮膚や粘膜に水ぶくれを作った後、水ぶくれの中で増殖したウイルスは、知覚神経をさかのぼって神経が集まっている神経節というところで休眠(潜伏)状態になって存在し続けます。

 「1型」は顔の三叉神経節、「2型」は腰部の腰仙髄神経節に潜んでいます。

 風邪や紫外線、ストレスなどの誘因があると再び活性化し、神経線維を伝わって皮膚へ戻り、以前水ぶくれを作っていた同じ場所(三叉神経節では上顎、下顎などの皮膚、腰仙髄神経節では外陰部)の皮膚や粘膜に水ぶくれを作ります。

 

単純ヘルペスウイルスの感染経路  

 

 感染経路はほとんどが「接触感染」です。その他「物を介した感染」もあります。

   1型は水ぶくれなどの症状がある人とのほおずりやキス、食器やタオルなどを共有することで感染します。2型の多くは性行為によって接触感染します。

 感染しやすいのは症状が出ている時期だけですが、皮膚表面に症状がなくても、ウイルスが粘膜や唾液、精液などの体液に出ていることもあり、自覚症状がなくても感染させてしまう可能性はゼロではありません。

 単純ヘルペスウイルスの初感染は、小児期に集団での接触感染によって起こります。成人の90%が単純ヘルペスウイルス1型に対する抗体を持っているとされていますが、衛生環境が改善し、抗体を持っている成人が減っています。一方、成人の単純ヘルペスウイルス2型の抗体保有率は平均で20%程度と言われています。

 

単純ヘルペスウイルスの臨床症状(小児や成人)

 初感染では、90%以上が不顕性感染ですが、歯肉口内炎、角結膜炎、外陰部ヘルペス(外陰部に水ぶくれ、潰瘍を認め強い疼痛がある)などの症状を起こすことがあります。

 

 

 

 乳児の初感染のほとんどは症状がありませんが、まれにヘルペスが重症し「ヘルペス性歯肉口内炎」を引き起こすことがあります。高熱が出た後、口の中やまわりに水ぶくれができ、患部に痛みや出血を伴います。痛みのためにミルクを飲むことができないため脱水症状を引き起こしてしまう可能性があり、入院による治療が必要となる場合があります。水ぶくれは2週間程度で乾燥してかさぶたになり治ります。

 

単純ヘルペスウイルスの母子感染=大半は分娩時の産道感染

 単純ヘルペスウイルスによる母子感染には、胎盤を通じて感染する胎内感染と分娩時の産道感染があります。小頭症など中枢神経系の異常を生じる胎内での感染はまれで、大半は分娩時の産道での感染です。

 性器ヘルペスは主に2型によって引き起こされますが、1型が原因になることもあります。

 性器ヘルペスのある妊婦が経膣分娩で赤ちゃんを出産した場合、母体が初感染である場合には、ウイルスの排泄量が多いため、約30~60%の児が新生児ヘルペスを発症します。一方、再発型では0~3%程度とされており、初感染で高率です。

 

新生児単純ヘルペスウイルス感染症の症状

 新生児単純ヘルペスウイルス感染症は、症状から全身型、中枢神経型、表在型(皮膚型)の3つの型に分類されます。
 全身型は最も重篤で、生後1週間前後に症状がみられ、極めて進行が速く予後が不良です。

 中枢神経型は脳炎によるけいれんなどの神経症状が見られ、生命予後は必ずしも不良ではありませんが、神経学的後遺症を残すことがあります。表在型は皮膚などに限局する水ぶくれで、比較的軽症で予後は良好です。全身型、中枢神経型では水ぶくれなどのヘルペスに特異的な皮膚の症状がみらないことも多く、診断が困難なことがあります。

 新生児で、生後1週間前後に発熱を認め、元気がなく哺乳力が低下し、傾眠、呼吸困難、増強する黄疸などの症状があれば、新生児ヘルペスも疑い、早期に治療を開始する必要があります。

 

 

新生児単純ヘルペスウイルス感染症の診断

 

  1. 皮膚の水ぶくれのからのウイルス培養または単純ヘルペスウイルスPCR(ウイルスのDNAを増幅する方法)が用いられています。感度が高く、比較的迅速であるといった特徴があります。
  2. 皮膚粘膜病変からのウイルス抗原を検出(蛍光を用いて抗原を光らせる)する方法です。感度、簡易さなどの点で優れており、1型,2型の鑑別も可能です。ただ抗原量が少ないと偽陰性になる恐れがあります。
  3. 急性期と回復期の2回の採血で4倍以上のIgG抗体の上昇やIgM抗体の上昇で判断します。

 

新生児単純ヘルペスウイルス感染症の予防には帝王切開が必要な場合がある

 妊娠中にお母さんに性器ヘルペスなどの水ぶくれなどの症状があれば、ウイルス分離を行うとともに、1~2週間隔で単純ヘルペスウイルスIgMとIgG抗体検査を行います。それによって初感染か再活性化かの鑑別を行い、赤ちゃんへの感染を予防するために分娩様式を決める必要があります。

 また、赤ちゃんは出生後1週間以上入院して、十分に経過観察を行う必要があります。

 

 

新生児単純ヘルペスウイルス感染症は抗ウイルス製剤で治療が可能

 新生児単純ヘルペスウイルス感染症は、アシクロビルという抗ウイルス製剤を全身投与することで治療を行うことができます。アシクロビルには重篤な副作用が少なく、赤ちゃんに単純ヘルペスウイルス感染症が疑われる場合には、確定診断の検査結果を待たずに、できるだけ早く治療を開始し、重症化を防ぐ必要があります。

 

さいごに

 単純ヘルペスウイルスの感染経路は「接触感染」です。お父さんやお母さんに口唇ヘルペスなどの症状がみられる場合、「赤ちゃんにキスをしない」など、ウイルスを感染させないように十分注意しましょう。また、分娩時に母親に性器ヘルペスの症状がみられる場合や、分娩の1ヶ月位前に初めて感染し症状が出た場合などは、自然分娩で出産すると赤ちゃんに感染することがあり、感染を予防するために帝王切開が選択されます。

 

ではまた。      By ばぁばみちこ