【連載 ばぁばみちこコラム】第二十回 赤ちゃんに問題となる感染症―サイトメガロウイルス― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 サイトメガロウイルスは世界中に存在するありふれたウイルスです。多くの人は、幼い頃に保育園などの集団生活の中で感染しますが、未感染のお母さんが妊娠中に初めてサイトメガロウイルスに感染すると、胎児に重篤な障害を引き起こす可能性があります。

 

サイトメガロウイルスとは?

 サイトメガロウイルスという名前はあまり聞きなれないかもしれません。1956年に初めて重症の黄疸を認めた赤ちゃんのおしっこから見つけられました。

 サイトメガロという名前はサイトcyto(細胞)メガロmegalo(大きい)に由来しています。感染した細胞は数倍にも大きくなり、封入体を形成するため、サイトメガロ感染症は別名、巨細胞封入体症とも呼ばれています。

 

 サイトメガロウイルスは、単純ヘルペスや水ぼうそうなどのウイルスなどと同じヒトヘルペス科に属しています。人から人への感染のみで、人以外の動物への感染や、動物からの感染もありません。

 感染するとウイルスは一生、耳下腺、骨髄、肺、子宮、乳腺など、多くの体の組織に潜んでいます(潜伏感染)。

 潜伏感染はヘルペスウイルス科に共通する特徴で、体内に潜んでいても通常は症状を引き起こしませんが、免疫が低下すると再活性化し病気を引き起こすことがあります。

 

先天性サイトメガロウイルスの感染経路     

サイトメガロウイルスの抗体を持っていないお母さんが増加!!→妊娠中の初めての感染に注意

おしっこや唾液が最も重要な感染経路

 乳幼児期に初感染を受けると、その後長期間にわたり、唾液やおしっこ中にウイルスが排泄されます。 感染を受けた子どもの多くは症状を認めません(不顕性感染)が、集団生活の中で唾液やおしっこなどから他の子どもへ水平感染を起こします。

産道・経胎盤感染

 近年、若い女性のサイトメガロウイルス抗体保有率は以前の90%台から60~70%台に低下しています。これは、衛生環境の改善によって昔のような集団の中での幼少期の感染が減少してきたためです。

 抗体を持っていない未感染のお母さんが、妊娠中に初めて感染すると、先天性サイトメガロウイルス感染症の赤ちゃんを出産する危険性があります。

母乳

 サイトメガロウイルスは乳腺にも潜んでいるため、既感染のお母さんの母乳中からも排泄されます。成熟児で産まれた赤ちゃんは、母親から抗体が移行しているため、問題となることはほとんどありませんが、早産児は十分な移行抗体を受けずに生まれるため、母乳による初感染から感染症へと進展する可能性があります。

 

先天性サイトメガロウイルス感染症

 

 初感染の妊婦が胎盤を通じて胎児に感染を引き起こす頻度は20~40%で、そのうち産まれた時に症状が見られるのは5~10%です。一方、抗体を持っているお母さんが、妊娠中にウイルスの再活性化などによって胎児に感染を引き起こす頻度は0.2~2.2%と言われています。

 

 症状は重篤なものから軽症まで様々ですが、一般的に再活性化に比べて、初感染の場合に重篤で、典型例は巨細胞封入体症と呼ばれています。

 妊娠早期の感染では胎児の発育の遅れから低出生体重児が多く、小頭症や脳内の石灰化など、中枢神経系に重篤な障害を起こします。妊娠後期の感染では肝炎、肺炎、血小板減少症や紫斑などの臓器障害を起こします。また、出生時には全く無症状で後に難聴や精神運動発達の遅れで発見されることもあります。

 

 

 平成20〜23年度に先天性サイトメガロウイルス感染スクリーニング体制のための厚生労働研究(http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/results.html)が行われました。

 ろ紙に含ませた赤ちゃんのおしっこを用いて行った先天性サイトメガロウイルス感染のスクリーニングで、全国25施設の約23,405人の赤ちゃんのうち、71人の児が陽性であったという結果が報告されました。それによると先天性感染の頻度は新生児300人に1人、そのうち1,000人に1人が出生時に症状を認めていたとの結果が得られています。

 これは、全国で毎年生まれる赤ちゃんの数から推算すると、感染している赤ちゃんは年間3、000人以上、それによって何らかの障害を持つ子どもは年間1,000人産まれていることになりますが、その多くは診断がつかないままで見逃されている可能性があります。

 

先天性サイトメガロウイルス感染症の予防のためには?

①お母さんが抗体の有無(胎児に感染の危険性があるか)を調べておくことは大切です

  妊婦健診では感染症の抗体スクリーニングが行われますが、サイトメガロウイルスの抗体検査は妊娠初期のルチーンの検査には含まれていないので、検査を希望する場合は、産婦人科医師に依頼する必要があります。

 風疹や梅毒などの抗体スクリーニングがほぼ100%行われているのに対し、サイトメガロウイルスの実施率は最も低く、4.5%しかないことが厚労省の研究で判明しています。

 

 
 感染が起こると、まずIgM抗体が上昇し、その後、遅れてIgG抗体が上昇します、IgMとIgG抗体を調べることによって、過去の感染か、最近の感染(初感染)であるかがある程度判断することが可能です。

 妊娠する前に自分自身の抗体の有無を知っておけば、赤ちゃんを感染から守るのに役立ちます。

 

②こどもの「おしっこ」と「唾液」に注意しましょう!!!

 サイトメガロウイルスに対する免疫を持たない(IgMとIgG抗体がともに陰性)妊婦は、妊娠中の感染に気を付ける必要があります。

 国内の先天性感染児は第 2 子以降に多いことが報告されています。これは、保育園などで他の子どもから感染した上のお子さんから排泄されるウイルスが、おむつを替えや食事などから母親に感染し、妊娠中であれば胎児にも感染する可能性が示唆されています。

 また職業上、常に子どもと接する機会が多い保育士などは特に注意が必要です。米国CDC(疾病予防管理センター)では、サイトメガロウイルス感染症の予防のために、妊婦に対して、以下の予防策をとるように勧告しています。

 

先天性サイトメガロウイルスが疑われる出生児の検査

 

 生後 3 週間までの赤ちゃんの尿や血液からサイトメガロウイルスが検出されると診断が確定されます。方法としてウイルスの培養や ウイルス抗原血症検出法(アンチゲネミア法)、PCR 法がありますが、迅速性,簡便性,正確性などの利点から,PCR 法(サイトメガロウイルスのDNAを増幅する方法)が用いられています。

 また、サイトメガロウイルスIgG・IgMなどの血液検査に加えて脳の画像検査(頭部超音波,CT,MRI),聴力検査および眼底検査などの精査が必要です。聴力の異常はしばしば生後数ヶ月後に出現するため新生児期に異常がなくても、定期的にフォローし再検査が必要です。
 

先天性サイトメガロウイルス感染症の治療

 治療にはガンシクロビル(点滴投与)、バルカンシクロビル(内服)という抗ウイルス薬が用いられていますが、最も用いられているのはガンシクロビルです。

 症状を認めた先天性サイトメガロウイルス感染症の赤ちゃんに、新生児早期からガンシクロビルを使用した結果、感音性難聴の改善や進行の抑制が見られたことが報告されています。ガンシクロビルによる最適な治療方法や治療期間、副作用や長期的な影響もまだ十分にはわかっていないのが現状で、今後の研究が待たれます。

 

さいごに

 昔は誰もが持っていたサイトメガロウイルスに対する免疫を持っていない人が多くなり、今後も未感染のままで妊娠可能年齢になり、妊娠中に初感染してしまうお母さんが増えることが予想されます。サイトメガロウイルスに対するワクチンはまだ実用化されていません。お母さん一人ひとりがサイトメガロウイルスの予防に対する知識を持っておくことは大切ですね。

 
ではまた。    By ばぁばみちこ