【連載 ばぁばみちこコラム】第十九回 赤ちゃんに問題となる感染症―梅毒― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 厚生労働省の感染症発生動向調査によれば、平成25年頃から梅毒の感染者が増加し始め、再び流行する兆しを見せています。梅毒はペニシリンの投与によって治る病気です。
 治療を行わないと進行し本人だけでなく、梅毒にかかったお母さんから産まれた赤ちゃんに障害を引き起こすことがあります。

梅毒患者報告数の年次推移

 平成15年に国内で報告された梅毒感染者の数は総数で509人でしたが、平成25年頃から梅毒の感染者が増加し始め、平成29年は総数5,826人と約10倍にとなり、平成30年の暫定値は7,000人を超えています。
厚生労働省を始め、各研究所や医療機関が梅毒の感染の危険性に注意を呼び掛けています。

女性の感染者増加率に注目!?

 梅毒感染者数の男女比では、男性の報告数は多い傾向にありますが、感染者数の伸び率をみると男性よりも女性の方が圧倒的に高くなっています。
 平成30年の男性の感染者数は4,588人、女性の感染者数は2,413人で、平成26年の男性の感染者数1,283人、女性の感染者数377人から見た伸び率は男性が3.6倍であるのに対し、女性は6.4倍にもなっています。

 

年齢別に見た梅毒患者数の年次推移:20代の感染者が急増!!!

 梅毒が急増した平成25年から見てみると、20代の増加率は平成25年309人から平成30年には2,253人と7.3 倍にもなり、他の年代よりも突出して20歳代の感染者の数が増加しています。

他の性感染症の感染者数との比較

 厚生労働省は梅毒以外の主な性感染症についても患者数の動向データも公開していますが、梅毒以外の性感染症は、平成15年以降減少し、ここ10年はほぼ横ばいで推移しており、増加傾向は見られていません。

 

梅毒の初期症状は?

 梅毒は昔の病気と思われがちですが、感染者の増加にともない気づかないうちに梅毒に感染してしまっていることがあります。
 梅毒は梅毒トレポネーマによって引き起こされる性感染症(STD:Sexually Transmitted Disease)で主に性行為によって感染します。

 

 梅毒の症状の進行度は第4期に分類されます。

 

 このうちの第1期~第2期を「初期梅毒」、第3期~第4期を「晩期梅毒」と呼んでいます。
 梅毒は感染してから症状が現れるまでの潜伏期間が長く、初期の症状は感染後約3~6週間後にあらわれます。
 
 初期症状は、感染局所の「初期硬結」というしこりで、その後破れて「硬性下疳」というただれとなります。初期硬結や硬性下疳は痛みがほとんどありません。

 また、「梅毒性リンパ節炎」といわれる脚の付け根のリンパ節の腫れがあらわれます。

 第1期の自覚症状が、脚の付け根のリンパ節の腫れだけということも多く、痛みがないので、見過ごされることがあり注意が必要です。                 
 初期硬結・硬性下疳・梅毒性リンパ節炎はおよそ3週間で自然に消失しますが、治ったわけではなく、放置すると病気は進行します。梅毒は自然に治る病気ではないので、初期症状がみられる第1期のうちにペニシリンによる治療を受ける必要があります。
                             
 感染後3ヶ月を経過し第2期に入ると、梅毒トレポネーマは血液によって全身に広がります。全身的症状として特徴的なものに、「バラ疹」があります。1~2cm程の赤色や赤紫色の発疹で全身の皮膚や粘膜にできます。この丘疹がバラの花びらを散らしたように見えることから、バラ疹といわれています。

 

 

 

梅毒の検査は感染から4週間以降に行わなと正しい結果が出ない

 

 梅毒は、血液中にある梅毒の抗体を調べることで診断ができます。体内で抗体ができるまで、およそ4週間かかるため、4週間以内の検査では誤って「陰性」の結果になってしまいます。
 
検査には2つの方法があり、この2つの検査方法を併用して、梅毒感染の有無を判断します。

 

①非梅毒性検査法(STS: serologic tests for syphilis)特異性にかける。

 梅毒トレポネーマに感染した組織が産生する自己抗体と脂質抗原との反応を検査するもので、感染後3週間~6週間程度で陽性化するため、比較的早期の診断が可能ですが、感染していない人の体内にも存在することがあるため、疑陽性がみられることがあります。

 

②梅毒性検査法(TP法:梅毒トレポネーマ抗原を用いる方法)特異性が高い。

TPHA法:感染後陽性化までに約3ヶ月と時間がかかり、治癒しても陰性化しにくい。
FTA-ABS法:感染後比較的早期に陽性化。
 

先天性梅毒

 

 梅毒は、第1期から第4期と進行していきますが、胎児に感染するのは、妊婦が第1期~第2期という早い段階の梅毒にかかっている場合です。治療を受けなければ、胎盤を通して胎児に感染する可能性は100%近く、40%の胎児は死亡に至ります。

 

 先天性梅毒の臨床症状は多彩で、多くの場合、出生時は症状を認めないことが大半です。
現れる症状や時期は様々ですが、大きく分けると「早発型」と「遅発型」に分類できます。

早発型先天性梅毒

 生後3か月以内に発症し、水疱性発疹や斑状発疹、難治性の鼻づまり、口の周りのかさぶたなどの症状が現れます。また、梅毒性骨軟骨炎による長管骨の痛みのために手足を動かさないので、麻痺しているようにみえる状態(Parrot仮性麻痺と言います)が特徴的です。

遅発型先天性梅毒

 乳幼児のうちは症状が出ず、学童期以降に発症し、角膜炎、内耳性難聴、上前歯の変形(ハッチンソン歯)などの症状が現れます。

 

先天性梅毒予防のためには定期的な妊婦健診を受けることが重要です!!!

 

 妊娠初期の妊婦健診では梅毒検査を行うことが母子保健法で義務づけられています。検査の結果、梅毒と診断された妊婦にはペニシリンを投与して治療を行います。妊娠中に適切な治療を受ければ、98%の割合で先天性梅毒を予防することができます。
 一方、梅毒にかかったお母さんが妊娠中に十分な治療を受けなかった場合や、妊娠中期以降に感染した早期梅毒などで、赤ちゃんに感染が疑われる場合には、臍帯血を用いた梅毒検査を行って赤ちゃんにペニシリン投与による治療を行うことが必要です。

 

さいごに

 ここ数年、梅毒は再流行の兆しを見せており、その中でも、特に気になるのが20代、そして女性の感染者です。これから赤ちゃんを産み育てる若い世代が、梅毒について予備知識を持ち早期発見と早期検査で適切な治療を行うことが、梅毒の感染拡大と赤ちゃんへの感染を防ぐのに最も大切なことです。

 

ではまた。    By ばぁばみちこ