「スウェーデンのアール・ブリュット発掘」の紹介 共同執筆者 渡邉芳樹(元・駐スウェーデン日本国特命全権大使、糸賀一雄記念財団理事、 愛成会アール・ブリュット担当顧問)

 

 スウェーデンのアール・ブリュットについて2015年以来の調査・発掘を行い、様々な作品と遭遇し、2018年6月には首都ストックホルム近郊で日本とスウェーデンのアール・ブリュット作品の展覧会を開催することが出来た。並行して取り組んできた障害者文化芸術推進法の成立も同じ6月に実現した。本書はそれらを踏まえて2018年8月末に出版されたものである。

 

 これまで世界で知られていなかったスウェーデンのアール・ブリュット作品や作家だが、やはり人間の創造の可能性は万国共通であり、スウェーデン側関係者の協力を得てそのシンプルな事実を本書において約100点もの作品を示しその背景等に様々な論評を加えることで確認できたことは誠に感慨深い。

 

 生の芸術と言われるアール・ブリュットは、障害の有無にかかわらず正規の芸術教育を受けていない人々が生み出す無作為で独創的な作品群を指す。既存の美術界や社会の常識に一石を投じ芸術を解放するものとも言われている。

 

 障害の有無にかかわらず等しく社会参加できる社会をめざすノ―マライゼイションという福祉理念は、敢えて言えば障害による凹を埋める必要な支援と可能性の付与でもあるが、アール・ブリュットは障害があっても凸として突出する個性と能力の社会的評価を通じてあらゆる人を勇気づけ、多様な他者をリスペクトし共生する心を育む。福祉と芸術のシームレスな関係を通じてこれまでの福祉モデルに新しい世界を切り開くものではなかろうか。

 

 今後、「アール・ブリュットの輝くまち」が増えれば増えるほど、知的障害者福祉の先駆者である糸賀一雄の言葉どおりアール・ブリュットを制作する障害者などが「世の光」となり多くの人たちの「希望の光」になることが予想される。本書の出版と交流を契機に福祉国家の本家スウェーデンでもあらためてこうした「世の光」が認知され広まることを期待する。