セラピスト事件簿No2 ~車椅子作製時の大失敗~ 佐々木塾 代表 理学療法士 佐々木昭

 

 平成22年夏、この年は本当に暑い夏でした。すでに数年前から異常気象、猛暑などの言葉がニュースに出始めていたように記憶しています。そんな暑い日に、大変な冷や汗をかく出来事がありました。


 当時担当していた ①小学校高学年 の脳性麻痺を持つ子どもさんのお母さんから小学校で使用する「車椅子作製」の「相談」がありました。小学校入学の際に作製した車椅子が小さくなったために、新しい車椅子を作りたいとの申し出でした。


 幼児期から良く知る子どもさんで、➁小学校での生活 も聞いていたので、③お母さんとの話 は順調に進み、④自宅での業者さんとも打ち合わせ が無事に終わりました。そして、その後、補装具意見書を作成していただく更生相談時の医師の一言が、この事件の発端でした。「学校の先生にも相談をしときなさいよ!」


 その後の訓練の時にお母さんから、学校の担任の先生に車椅子の話をしたら、次のような話があったとのこと。「来年からはひょっとしたら、通学バスに車椅子乗車ができるかもしれません。」「そうなると、座っている時間も長いし、姿勢を維持することが大変になるように思います」「座位保持装置と車椅子を1台にできれば、、、」 私は、顔面蒼白でした。そして脇汗いっぱい、背筋にぞくっ。


 すぐに、お母さんに自分の失敗をお詫びして、区役所に提出した補装具意見書を回収して頂き、私は業者さんに連絡し、見積もりと設計を止めてもらい、お母さんに再度、更生相談の予約をして頂いて、、、などなど、周囲の皆様に多大な迷惑をかけた上、子どもさんとお母さんにも、二度手間をさせてしまいました。

 

 この時の失敗は、①特別支援学校によって差はあると思いますが、小学校高学年になってくると、通学バスの乗車方法が変更されることがあることを知りながら、予測していなかった ➁小学校の生活を「聞いた」だけで、知った気になっていた(自分自身の「目」で確認していなかった) ③お母さんと話しただけで、実際に子どもさんと作製する車椅子を使用する学校の担任の先生と相談していなかった ④業者さんとの打ち合わせの際に、子どもさんと補装具のことだけを考え、使用場所、使用者、使用目的を確認していなかった これらの複数要因が重複したことで、その時の大失敗は起こるべくして、起きたと、後日大いに反省しました。


 車いす・バギー・座位保持装置など補装具の作製に関しては、子どもの身体状況を把握している担当セラピストが中心的な役割を担っていることは間違いないと思います。その中で、セラピストが進めていく思考過程は、全身状態(呼吸器・循環器などのバイタルサインを含めて)を基本に、脊柱・股関節などの整形外科的状況と関節可動域を勘案し、子どもさんの認知機能、上肢機能、姿勢保持能力などを評価し、補装具の種類、設定を決定していきます。この思考作業の後に、私自身、今回の失敗の内容を踏まえて、環境(使用場所、使用者、使用目的など)要素を情報収集し、保護者の意向を加味し、最終的な補装具の仕様を決定していくように心がけています。