【連載 ばぁばみちこコラム】第六回 こどもの事故―溺水― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 子どもが“溺れる”危険性は浴室や洗濯機など家庭内にたくさんあります。

 

 

 子どもは水遊びが大好きです。蛇口をひねると水がキラキラとはねています。洗濯機の水はクルクル回っています。私の子どもも幼い頃、お風呂のシャワーでよく遊んでいました。
 水の事故といえば海や川、プールなどの戸外を思い浮かべますが、子どもでは家の中で水に関する事故が多く見られています。平成28年度の消費者庁の調査によれば、14歳以下の子どもの溺水事故は466件で、川や沼、海などの自然水域での事故が最も多く189件で、次いで浴槽内が165件であり、件数では自然水域に匹敵する溺水が浴室など家庭内で起こっています。

 

家庭内での事故の現状

①家庭内での事故件数の推移

 厚生労働省の人口動態統計によれば、家庭内で起こる事故件数は平成10年以降、次第に減少していますが、溺水は、不慮の窒息に次いで第2位で、ここ数年ほぼ横ばいで推移しています。

 

②年齢別の家庭内事故件数

 平成23~28年の家庭内の事故では不慮の窒息が最も多く、0歳代で大半を占めています。次いで不慮の溺水や溺死事故が多く、1~4歳代で最も多く起こっています。

 

③家庭内の溺水の場所

 平成23~28年に起こった溺水や溺死事故の大半は浴室で起こっています。その他、洗濯機やトイレなど水のある場所であればどこでも起こる可能性があります。

家庭内での溺水事故を予防するためには

 

 子どもは頭が大きく、大人に比べ重心が高く、また筋肉も未発達です。1歳を過ぎてひとり歩きを始めると、水のある場所でバランスを崩すと溺れてしまう危険性があります。
 家庭での溺水は、子どもだけでの入浴や大人の洗髪中など、ほんのわずかな間に起こっています。たとえ短時間でも、こどもを浴室に1人にするのは止めましょう。
 また、浴槽に残り湯を残さない、カギをつけて子どもが一人で浴室に入れないようにすることで事故が予防できます。
 トイレと洗濯機での事故も報告されています。子どもが小さい間はトイレも浴室と同様にカギをつけて一人で入れないようにしておくと安心です。また、洗濯機にも水を残さないことやチャイルドロック機能のある洗濯機を選ぶと事故防止に役立ちます。

 

もし溺水事故がおこったら!! 

 

 お母さんの洗髪中に一瞬溺れたなど短時間で、呼吸や顔色が正常で呼びかけに反応があれば様子をみてよいと思われます。 
 意識がなく顔色が悪い、呼吸をしていない場合には、大きな声で呼びかけ、背中をたたくなどの刺激を行って反応をみます。反応や呼吸がなければ、速やかに蘇生処置を開始しましょう。
 子どものそばにお母さんやお父さんなど大人が一人しかいない場合には、落ち着いて以下の蘇生処置を2分間行って救急車を呼びましょう。心臓の動きが数分途絶えると脳に障害を残します。

<心肺蘇生処置のABC>

 子どもでは呼吸が止まった後に心臓が止まってしまうことがほとんどで、子どもの心肺蘇生では呼吸の回復が重要です。心肺蘇生は、ABCの順で行います。AはAirway(気道を確保)、BはBreathing(人工呼吸)、Cは、Circulation(心臓マッサージ)です。

 

A(気道確保)
 あおむけにして、折りたたんだタオルなどを肩の下に置き、頭を後屈させ、あご先を挙げて気道を確保します。これによって舌が空気の通り道をふさぐのを防げます。呼吸が回復すれば、吐いたものなどで気道をふさいだりしないように子どもの体を横向きにします。


B(人工呼吸)
 気道確保のみで呼吸が再開しなければ、息を吹き込んで人工呼吸を開始します。
 赤ちゃんでは、口と鼻の両方から。幼児以降の子どもでは鼻をつまんで、口から息を吹き込みます。1回の呼吸は1秒程度で、胸が膨れるのを確認してください。まず2回行って、その後心臓の動きをチェックします。手首の脈拍を触れるか、左の胸部に耳をあて心臓の音を聴きます。心臓の動きが確認できれば、呼吸が回復するまで気道確保と人工呼吸を続けます。

 

C(心臓マッサージ)
 心臓の動きが確認できなければ人工呼吸に加え心臓マッサージを開始する必要があります。
心臓マッサージの位置は、両方の乳首を結んだ胸の真ん中です。子どもの場合片手の手のひらで、赤ちゃんでは指2本で、胸の厚みが1/3くらいへこむ強さで圧迫します。心臓マッサージを30回行った後に人工呼吸を2回、これを1サイクルとして、救急車が到着するまで続けます。

 

子どもの大好きな水と上手につき合いましょう

 子どもにとって水遊びはとてもワクワクするものです。私の子ども達も幼い頃、夏になるとベランダにビニールプールを置いて遊んでいました。輝く子どもたちの笑顔が水の事故と隣り合わせであることには心が痛みます。子ども達が大好きな水と楽しくつきあえるように願っています。

 

ではまた。   By ばぁばみちこ