【連載 ばぁばみちこコラム】第五回 こどもの事故―誤嚥と窒息― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 子どもが突然苦しそうにゼーゼーと呼吸をし始めたら誤嚥かもしれません。

 

 誤嚥(ごえん)とは、食べ物などをうまく飲み込みめず気管に入ってしまうことです。

 誤嚥は窒息による命の危険だけでなく、肺炎や酸素不足による脳障害をおこすことがあります。

 乳幼児は周りの物に興味があり、何でも口に入れて確かめます。子どもは口を大きく開けることはできますが、食道の入り口は細く、また、のどに詰まったものを自分で吐き出す力が十分ではありません。そのため、誤嚥した食べ物やおもちゃなどで気道を閉塞する可能性があります。

 誤嚥すると、激しく咳き込んで、飲み込んだものを吐こうとしようとしますが、さらに奥に入ってしまうと反応は起きません。子どもが突然苦しそうにゼーゼーという呼吸し、顔色が悪くなった場合には、誤嚥が疑われます。

 窒息は食べ物だけでなく、おもちゃなどの異物の誤嚥や、ビニール袋をかぶって遊んでいておこることもあります。また、首にひもや電気のコードが絡まったりしてもおこります。子どもが滑り台で遊んでいて、着ていたフードがひっかかり死亡するという痛ましい事故も報道されました。

 

誤嚥や窒息を起こしやすい食べ物

 消費者庁が、厚生労働省「人口動態調査」に基づき、平成22年からの5年間に起こった14 歳以下の子ども窒息死事故623件のうち、食品による事故は約17%(103件)で、6歳以下の子どもの窒息事故は87件を占めていたと報告しています。 

 窒息を起こしやすい危険な食べ物は、一口サイズで吸い込んで食べるミニトマト・リンゴ片・ブドウなどの果物が最も多く、窒息死の7~10%を占めています。また、アメ・ピーナッツなども危険です。特にピーナッツなどの豆類は、気管に入ると水分を吸収して膨らみ、気管支をふさいでしまいます。また、ピーナッツ類に含まれている油の成分によって肺炎を起こすため、3歳まではピーナッツなどの豆類は食べさせないように注意しましょう。

食べ物による窒息事故予防のための注意点

<食べ物の与え方>

 乳幼児は、食べ物を歯でかみ切り、臼歯ですりつぶす機能が未熟で、まる飲みをします。特にブドウやミニトマトなど、ある程度の硬さがあり丸くて口の内を滑りやすい果実や野菜を食べる時は、小さく切ってあげましょう。一口の量は、子供が無理なく食べられる量にすることも大切です。

 

<食事中に注意すること>

  1. 遊びながら、歩きながら、寝転んだままで食べさせず、ゆっくり座って食事をさせましょう。
  2. 食べている時に急に大声を出したり、背中を押したり、驚かせたりしないようにしましょう。
  3. 急いで飲み込まず、ゆっくりとよくかみんで飲み込むよう促しましょう。
  4. 急停車する可能性のある車の中や揺れる飛行機の中では食べさせないようにしましょう。
  5. 上の子どもが赤ちゃんに危険な食べ物を与えることがあるので注意しましょう。

 

身の回りにあるおもちゃなどの誤嚥や窒息

 おもちゃは、子どもの発達にとってとても大切なものです。手でおもちゃの感触を確かめ、色を見ながら多くのことを学んでいきます。おもちゃは小さな部品でできていることが多く、間違って口にくわえて飲み込んでしまう危険があります。

 消費者安全調査委員会が平成29年11月におもちゃによる乳幼児の誤嚥事故について原因調査報告書を発表しています。おもちゃを「誤嚥した」ことのある子どもを持つ保護者302人に対して、過去1年の誤嚥事故の回数を聴いたところ、1回以上の回答が263人(87%)であり、4回以上との回答も56人(18%)でした。お家の中で短期間に一定程度の誤嚥事故がおこっていることが推定されます。また、直近で子供がおもちゃを誤嚥した年齢では、6か月から1歳未満との回答が26%で最も多く、1歳以降では成長するに従って事故は減少する傾向がみられています。

 

 

 

 おもちゃの種類では、「ビー玉・おはじき」が最も多く、次にビーズを使ったおもちゃや小さなボールが多く見られています。形は、球形・立方体など、どの面から見ても同じ大きさのおもちゃが最も多く、次に「平べったい物」が多いという結果となっています。

 おもちゃの誤嚥は「何でも口に入れる」という乳幼児に見られる行動特性が関係しています。口に入りそうなおもちゃは使用後には子どもの手の届かないところに片付けることが重要です。

 

もし誤嚥事故で呼吸困難がおこったら!!
一刻も早く救急車を呼びましょう。

 気道が完全にふさがり意識がない状態では5~6分で命に関わる危険性が出てきます。異物を早く除去する必要があります。

 救急車が来るまでの大切な数分の間に行う応急処置をパパやママがあらかじめ知っておくことは、大切な子どもの命を救うことにつながります。

 応急処置として

 

  1. 「背部叩打法」
    うつぶせにして、頭を体より低くさせ、手のひら全体で背中(肩甲骨と肩甲骨の間)を叩く方法
  2. 「ハイムリック法(腹部突き上げ法)」
    年長児(乳幼児では行わない)では、後ろから両腕をわきのしたに回し、みぞおちの下で片方の手を握りこぶしにして腹部を上方へ圧迫する方法

 子どもがおもちゃなどを飲みこみ死亡する事故が相次いでいるため、消費者庁は2017年11月20日にウェブサイト(http://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_013/)上で「子どもの窒息発生時の対処法」の啓発動画を公開し、DVDの配布も行っています。

 ぜひ参考にしてくださいね。

ではまた。   By ばぁばみちこ